第1ー8 第4.6根源種

「私達は劣化した人種で、白人様の為に働けって事ね?で、兄はどこよ?馬鹿馬鹿しい、いい年になって何がオカルトよ!妄想もあなたの頭の中だけにしてよね!」

堂々巡りの話にも、飽きてきた自分は、そろそろ潮時と感じた。

畳み掛けるように、スーフィーに迫った。

こんな事、何回繰り返しても意味がないと察したからだった。

だが、スーフィーは冷静に対応した。

もうすぐ自分は、スーフィーのもう1つの顔を知る事になる。

「それは無理です。罪を犯しても無問題とはなりません。状況はそんなに甘くないですよ」

「なら、兄の罪は何?言葉を濁さないで、はっきり言ってくれた方が優しさを感じる。自分の常識が通用しない世界で、推測しろと言われても、限界あるのを分かって欲しい」

憤る自分を尻目に、困った表情するスーフィーは口を閉ざした。

言葉を選んでいるのか?それとも何か思惑があるのか?

はっきりしない態度が、余計に腹立たしい。

目がつり上がっていく自分を目尻で捉えると、ルーペ形眼鏡を指で押し上げ、ボソリと言った。

「…そ、それにこの事は、あなたのご両親がご存知だと思いますけど?」

「?…え…両親って」

「…ま、ともかく、お兄さんはこのままては危険とも言えます。桐子さんにもご協力頂いて、この状況を打開しようじゃありませんかぁ♬」

両手を大きく広げ、深妙な面持ちから一転し、スーフィーは笑顔の表情に切り替わった。

戸惑う自分に対して、屈託ない笑顔を見せるスーフィー。

ピンクウサギなりに、仮に自分に気を使っているなら、それは方法間違ってる!言いたい。

明るいスーフィーの表情が、新たなムカつきへと変わった。

(何言ってるの?このウサギ。どうしてここに両親が出てくるのよ。ママは兄を助けたいだけじゃない?他にも事情があるの?そもそも、どうしてこのウサギが、そんな事知ってるの?)

あの時、ママの態度に釈然としなかったのは、ここに秘密があったからか?

(私…いつも家族と思って…、どこまで真実で、どこまでが嘘で…、全部演技とか?子供騙す親がいる?また余計に分からなくなってきた!やる気もなくなるよ、こんなの聴聞かされたら…)

スーフィーの言葉に、動揺が隠せなかった。

頭に『不安』『疑念』いう文字で膨れ上がる。

一気に気が抜けて、立ち上がる元気さえも起きず、ボーッと前を見つめた。

やっと出た言葉は直感的で、自分らしくない卑屈な言葉だった。

「第5…根源種?とやらのスーフィー様が、劣化した人種に何をさせる気?ご自分達でされたらいかがです?その方が効率良いでしょ?」

「そ、そんな言い方しないで下さいよ、何度も申し上げた通り、こんなの単なる総称ですよ。第4にはアトランティスも含まれますから、種の指定範囲は広大ですよ。それにこれは、全て第5へ移行させる為にも、第4.6根源種の存在が必要不可欠なんです」

「それ、どういう事?」

「人は何処から来て、何処へ行くべきなのか?人類が常に思考し続けてきた問題の一つでもあります。そこで我々は考えました。人に限らず全てが第5へと移行し、そして未だ不確定要素の高い、第6.第7根源種へ移行出来たら、人が本来在るべき姿よりも種の入れ替えでの進化や、未知なる存在にもなりえてる!人間と世界の起源を探り、進化発見し、分析吟味する事で、全ての目的と起源についての説明がつくのですよ!」

(こいつ、完璧オタクの発想じゃね?でも慈雨吾も、似たような事を言ってた気がする。価値観共有とか、分かち合うとか、そんな日は半永久的に来ない気がする…)

ポケットに軽く触れると、慈雨吾の形げあった。

まだ寝ているようだった。

スーフィーに熱弁され、慈雨吾の事を思い返していたら、自然と体内の熱が冷めていった。

頭を少し整理した内容をスーフィーに伝える。はぁーと息を吐きながら。

「…話が大きくなり過ぎて、意味分からない。やっぱり白人様がされた方が良さげじゃ?」

「それが出来るのは、第4.6根源種の方のみです。恥ずかしながら、第5根源種は観察・分析のみですよ。あ、後説明ですね。それに第5根源種が白人ばかりとは限りません」

「ふーん、兄もその4.6の1人って事?」

「はい。根源種は源の原則系統の分類であり、地域や肌の色は特に関係はありません。系統ですから、比較的に同郷者と酷似、類似とかはあり得ますけど」

「じゃ、一つの場所でも、色んな系統の人達が混在しているって事ね?」

「そうですね。第1・第5根源種はアストラル体を扱うのが主に対して、エーテル体を駆使する種が第4.6根源種です。これは最近の発見であり、どれにも属さないので、ぼ、僕がそう命名しました!」

エヘン!と、鼻高々に誇り高げな感じが子供っぽい。

難しい言葉を羅列すると思えば、この子供ぽさが垣間見て、クスっと笑えるようになった。

スーフィーは更に話を続けた。

お茶を再び注ぎ、新たなティースタンドを追加して。

(アルトラルとか意味不明だけど、このフルーツ盛りは最高だな。紅茶も本当に美味しい。他が飲めなくなりそう)

モグモグ頬張る事で、力を癒す事にした。

単純な事から難解な事まで、色々思う事はある。

例えば、どうして4.6という数字?とか、いつ決めたのか?とか。

名前の何処にも『ス』が入ってないのに、スーフィーっていうのか?

でも一番は両親の事だ。

兄の罪の一因も、両親にもあるのか?

それはどんな内容なのか?

両親とスーフィーとの関係は?

言い出したらキリがなかった。

細かい事は後々聞くとして、早く話を進めろとスーフィーに催促した。

揚々と、スーフィーは自分の申し出に応えるのだった。

「第4.6根源種を見つけるのは、容易ではありません。アストラル体は大型攻撃は得意ですが、細かさが残念過ぎる程ありません。ですが第4.6根源種の方のエーテル体放出範囲は、確かに狭いのですが、高密度で飛距離もあり、ゲリら対策・索敵等には非常に適しており、よって第4.6根源種は大活躍出来る存在なんです!」

「攻撃に活躍って…穏やかじゃないのね、戦争でもやるつもり?戦争やってるんだっけ?」

(人に武器なんて向けたくもないのに、話がどうしてもそっちばかりに行くんだ…。もう二度とあんな事したくないし、されたくもない)

自分の思いとか意志とか関係なく、話だけが拡散し進行する中、スーフィーの発言にまた言葉を無くす。

「桐子さんの世界だって、いつも戦争があるじゃないですか?要は自分に関係あるかないかで、人間の関心度は大きく変わるのでは?」

「…!」

(正論すぎる、言い返せない。今の幸せも一時と考えたら、危機感持つのは悪い事じゃない。でも、それでも対岸の火事であると思いたい)

苦虫潰した表情の自分に同情したのか?

スーフィーは話の目線を変えて喋り始めた。

自分も気持ちを切り替えて、聞くに集中した。

今の自分には、スーフィーの言葉がどれほど有難いか?ちゃんと分かっているつもりだ。

「第4.6根源種の発掘目安として、まずはオカルトや目に見えない存在らを、本当に信じるかどうか?この判定者がロッシャンです。ロッシャンとが見込みありとした者は、本当の第4.6根源種適応者か?テストします。お兄さんはその途中で…まぁ期待も大きかったですが。久方ぶりの出現で、しかも…。お、お兄さん、ご健在ですよ」

「スーフィー、兄は本当に帰られないの?一時的にも?声だけでも聞かせてあけられない?心配してるの、特にママ…」

「…桐子さん、お優しいんですね。でもそれは不可能で無理なんです」

「どうして?」

「知りたいと…例え初めは興味半分で関わったとしても、その欲望にはリスクがあると、彼は考えなかった。知りたいなら、その対価を支払うべきです。だからこそ、情報には価値があります。こちらも何度も確認しましたが、彼は知りたいだけが先行した。本来ならその要素も資格も人一倍あったのに…」

「…」

(知りたい欲求の暴走…これは奴らしいかもしれない。何となく分かる気がする。無責任なところも良く分かる。迷惑かけてる自覚も無しだし…スーフィーは意外とマトモなんだな)

自然と下に目が行くと、すぐスーフィーが話し始める。

先ほどの意味ない、長台詞の時とはえらく印象が変わり、微笑ましくも思えるスーフィーを、いつの間にか受け入れていたようだった。

「落ち込んでいないし、スーフィーも気を遣ってるなら、その必要ないよ。あなたの内容に納得したまでの事。罪の重さの判断はともかく、責任取れないのに、軽はずみな行動をしたんだと理解したわ」

「ハハッ、す、すみません。うまく言えなくて…」

まだ分からない事が多いが、兄1人が被害者ではなく、本当にとんでもない事に首を突っ込んでいると再確認した?

大きな図体が右往左往するスーフィーを見ていると、ギャップで可愛いとさえ思えて、気持ちに余裕が出てくるようだ。

自分なりに、何となく分かってきた事もあるからだろうと思った。

スーフィーが自分に何をさせるかは、まだ知る由もなかったが…

「でも、ぼ、僕は本当に桐子さんに期待してるんですよ!」

「き、期待?どして?」

「それはだって…。そ、その、女性であってもブレない精神力に家族への思いの深さ。異空間でも動じない意志の強さ!これこそ第4.6根源種の資質だと思いました!さぁ!ぼ、僕と一緒に世界を救い、より良く変えていきましょう!」

「だ、だから面倒は嫌なんだって!それに今聞いたばかりで、何すればいいかも分かってないのに『やれ!』はないでしょ?私は世界より家族が揃ってくれたらいいのよ」

「でも、今みんな進化発展しないと、全員ルーピーズにやられちゃいますよ…」

「る、ルーピー?何よ、それ?」

(また次から次へと新しい単語が続く。前に聞きたかった単語を忘れるくらい多いよ…)

ドガドガと勇んで自分に駆け寄り、固く両手を握り締め、目を潤ませて力説していたスーフィーは、急に肩を落とし拗ねたように言った。

会話があちこちに飛び、どう収拾つけていいか見当もつかない。

話は思わぬ方向へと進んでいった。

「世界は7つまで確認されていますよね?ま、これも第7第6根源種同様、一部伝説化されていますが。この部屋は、それらの世界に繋がる為の中継地であり、4.6アイコンはここへ来る為のトリガーです。ここを通して、あなたには7つの世界から、沢山の本を回収して貰いたいのです!が、それらを必要としているのは、ぼ、僕達だけじゃありません。その筆頭格が第7根源種の通称『ルーピーズ』です」

スーフィーの勢いに気圧される自分。

ルーピーズと何やら、凄い軋轢があると感知した。

「パソコンには、1〜7までアイコンがあったけど、どれも繋がらなかったわ。それとその本とやらを回収してどうするの?数も多いの?ガチのRPGゲームみたい」

「多分アイコンは、一括ダウンロードされたのでしょ。適応種番号でないと、アイコンは反応しませんから。本の場所については、おおよそは分かりますが、そこから先はゲリラ的捜索が不可欠です。本が第6第7へ移行する為に必要なアイテムで、希少価値が高い程、中身も高くなります。感覚的にゲームでも問題ないかと」

「兄も私も4.6とやらだから、4.6に反応したと…ゲリラ的って、人も殺しちゃうって事よね?」

(ジェノ・カナと同じ事を言ってる。本当に死んでた。本の回収は嘘じゃないのか)

「ルーピーズは、第7世界の都市5つを一瞬で崩壊させ、数千という希少本を手に入れたきり、その後の新情報はありません。これも結構前の噂ですが、あなたのような4.6種が出てきたら、今は鎮静化している彼等も、活動活発化させるのでは?と、ぼ、僕は考えています」

「バンッ!」

「ち、ちょっと、待ってよ!一瞬でそんな事やっちゃう輩と対峙しろと?無茶振り過ぎでしょ?そもそも、一般学生に世界を託す事自体、恐ろしくないの?寝た子をわざわざ起こす必要もないでしょ?それにエーテルとか言われても、使ってる自覚無いし、やり方も何も…人は絶対に殺せないわ…」

(これは話がデカ過ぎでしょ。漫画じゃないのよ、冗談じゃない!こんなのこっちからお断り、当然拒否だ!)

両手でテーブルを思いきり叩き、立ち上がってスーフィーに抗議した。

目の前で人が血を流す感覚…助けられなかった無力感は、筆舌し難い思いで悶絶してしまいそうだった。

「…そうですか…、致し方ありません。本意ではありませんが、急遽予定変更で、あなたのご両親に代理をお願いしましょう」

「え?どうして両親を?これと何の関係あるのよ?ひ、卑怯じゃない!」

「いえ、卑怯でも何でもなく、この世にあのお兄さんを、産み落とす選択されたのはご両親です。ご両親は4.6ではないですが、素養はありそうですから、一時的に4.6にするくらい、ぼ、僕なら出来ますから」

突如ギョッとする、冷たい眼差しに変貌したスーフィー。

突然、見つめられた自分は、氷結してしまったかのような悪寒が背筋を走った。

その目が「言った事は嘘でない!」と、瞬間に悟った。

(こ、こいつマジだ…ヤバイっ!)

高圧的態度を一変させ、スーフィーの言葉を撤回させようとしても、後の祭りのようだった。

兄にやらせればいいとか、何度も謝罪の言葉を言っても、スーフィーは「ノー」としか言わない。

先方に折れる気は、更々ないって事だ。

それでも自分がやる…とは、最後の最後まで言い出す事は出来なかった。

そんな自分を尻目に、スーフィーは饒舌に語っていく。

自分を駒にしようとする、意図が見え見えな内容を延々と宣わった。

そして、自分は淵へと追い詰められていく。

「いいですか?あなたがいるから、お兄さんは健在と言っても過言ではない。あなたが来ると言うから、第5根源種の、ぼ、僕がわざわざここにいるんです。あなたがその予定調和も根底から覆すなら、ぼ、僕は全力で元の鞘に戻してみせます。これは血統の問題でもある、そもそも…」

「…?」

「ま、あなたが無理なら、この子を望んだ両親に責任取らせるのは当然です。お二人共、未成年ですしね…自己蘇生可能の自爆弾とかなら、投下するだけですし、こちらの手もそんなに掛かりません」

「ち、ちょっと待って…。ママを爆弾にするとか、やめてよ、お願いします。謝るから、両親にはされないでよ!兄にさせればいいじゃない、元凶はあいつでしょ?」

ヘナヘナと力が抜け、思わずその場に座り込んでしまった。

(そんなの屁理屈じゃないか!ママを兵器にするとか、恐ろし過ぎて想像も出来ない。ママは怖がりで虫も殺せない。あいつのせいで、家族がどんどんおかしくなっていく。兄貴をどうにかしたら、こんな事必要無いんじゃ…)

「冗談よね?スーフィー。人を爆弾とか怖い事言って…、パパも仕事で忙しくしてるの。お願いだから、邪魔しないで」

「(^_^)」

「…!」

(目が笑ってない、本気だ…どうしてこうなった?何が原因かも分からないよぉ、誰か助けてッ!怖いッ)

スーフィーの表情で、全てを悟った気がした。

勝手に涙が出てくる。

分かり過ぎている、悔しさと腹立たしさが胸を交差していく。

助けを懇願しても、誰も来る事もないと分かっているが、言わされてしまう悲壮感。

自分の無力さと力の限界を、こんなところで改めて確認させられるとは…。

色んな感情が込み上げてきても、言葉にならなかった。

ただただ肩を震わせ、泣くしか出来なかった。

毛足の長い絨毯に横たわり、嗚咽を殺して泣いていると、スーフィーが屈んで肩に手を置き、耳元で囁くように語りかけてくる。

「本当に優しいですね、桐子さん。でもこれはあなたが「ウン」と言えば、全て問題解決です。ぼ、僕は期待してるんです、あなたに。でも、あなたが男ならもっと期待しましたよ。だから桐子さん、結果を出して、それを証明して下さい。罪の女より、一番の罪深き者は、あなたかも知れませんね」

「わ、私が、罪深き?何故、どういう事?」

顔を上げてスーフィーを見ても、ニヤリと口元歪めるだけだった。

立ち上がり、自分を見下すように言い捨てた。

「ご両親はご周知ですよ。でもお話されるかは存じません。桐子さんも覚えていたら、尋ねられると良いですよ。知識欲・好奇心大いに結構です!しかし、それには覚悟と対価が必要です。世の中、知らなくてもいい事もあります。その為の血統でもあるんですから」

先ほどの愛らしさ等露程にもなく、ニヒルな口元見せつけるスーフィー。

正に見下されていた。

(予め決まっている事で、その筋書き通りに事が進められているって事だ。兄や両親は、自分にやらせようと煽っただけで…みんなして酷い…、一体家族って何なんだろ?自分だけ仲間外れみたいで嫌だ!)

複雑極まりない心中に、吐き気が上がってくるようだった。

出来るだけ感情的にならず、冷静に努めようと自分に言い聞かせていた。

「初めから決まっていた事みたいだし、私に選択の余地はないんでしょ?なら決まりだよね?兄なんて使わず、最初から直接、私に言えばいい事なのに、どうしてこんな回りくどい事を…」

「それは出来ません。オカルト等にほぼ興味のない桐子さんが、ロッシャンと会話はするなんて思いません。それに、ぼ、僕は、彼にもやって貰いたかったんです。血統もあるよう、一応は男性ですし…。でも無理でしたが」

人を本気で殴りたい!って、初めて思った瞬間だった。

己の理性で、拳の怒りを鎮めさせた。

「白人至上主義の次は、女性蔑視ですか?これも区別って詭弁ですか?」

「いえいえ、そんなつもりは毛頭ありません。ぼ、僕の言っている事は、そんな陳腐且つ単純ではありません。これは後々充分なお時間で論議しましょう」

(いけしゃあしゃあとよくも、この憎々しい減らず口叩く、ピンクウサギをギャフンと言わせてやりたい…けど、今は何も出来ないのが本当に悔しいッ‼︎)

煽るように人の気を逆なでるやり口に、ワナワナと体が震えてくる。

今ならスーフィーの要望通り、目の前の対象に、何でもやれそうな気がしてならなかった。

「そんなに怒らないで下さい、桐子さん。ぼ、僕はね、あなたと友好でいたいんです。その為には隠し事はいけないと思っています。正直にお話もしています。この対処は、あなたに必要であると判断したからであり、隠す意図は毛頭ありません。それに、対象は対人ばかりとは限りません。動物もメカもいて様々です。でも倒したら、鮮血は出るでしょうが」

「…そう、それはいい情報ね。応じた甲斐があったって事かな?これで自分も人殺しの仲間入りってやつ?」

やっと立ち上がれると、椅子に深々腰掛けて言った。

(本当に話が分からなくなってきた。どうも現実身がなくて、他人事にしか思えてならない。真っ只中の当事者なのに)

「そんな冷たい言い方…でも、ぼ、僕は謝らないです。本当の事ですから。それと何度か言ってるかも知れませんが、本は人型だけではありませんから。人型は珍しい方です!」

「謝って欲しいなんて、これっぽっちも思ってない。恩売られる方が、気持ち悪いから。人だろうと動物だろうと、その反対者であろと、血を流すのには変わりはない」

「ま、いきなりハードにはならないように、ぼ、僕は努めますよ?」

斜交いに見たスーフィーは、先ほどとは打って変わり、自分に対して申し訳なさそうに、肩身を狭くしていた。

引きつりつつある笑顔が、自分のこれからを暗示しているかのようで、末恐ろしいと感じた。

抑揚も無く淡々と喋る自分のやり方は、スーフィーが苦手のように思えた。

(さっきまであんなに威圧的だったのに、また可愛気が戻ってる。もう騙されない!)

「私、銃とか以前に機械も弱いし、エーテルとやらもやれないし、そんなのでやれるの?それと、最初に言っとくけど、世界なんかより、ママとパパの為のだから」

「………受けて貰えただけでも、こちらとしては有り難い事です!いやほんとに良かった、良かった!ぼ、僕が全面的にバックアップしますよ、これでも有能なんですから。ここに来たらまずは質問タイムにしましょう、これから桐子さんも、もっと知りたい事が沢山出来るでしょうから」

「それは有り難いわね。で、エーテルはどうしたらいいの?」

もうどうでも良くなってきた。

とりあえず、母の要望は叶えた。

自分が変り身する事で、兄は一応無事であろうし、助かるかもしれないのだから。

(基本的に自分の問いにはスルーで、己の話したい事だけ一方的に喋ると…。根本的に自分の今までの考え方に、修正入れないといけない時期かもしれないな)

身が入らず、素っ気ない返答ばかり返してした。

「武器があれば大丈夫です。原則的にエーテルは、武器を通してその威力を発揮しますから」

「原則的に?応用編もあるって事?」

「……ま、それは後々で良いのでないでしょうか?今日はお疲れになったでしょう。お風呂やお食事はいかがです?今ご用意をッ!」

「今日は帰らせて、家で寝たい。明日来るわ、決めた以上、逃げたりしないから」

「…そうですね、詰め込み過ぎるのも、お体に障りますね。では続きは明日で、次回は是非、ぼ、僕の食事も召し上がって頂きたいなぁ。そ、それにルーピーズの話もまだですし、そ、そうだ!明日は武器も見繕って、細かな打ち合わせもしましょう!では早速扉を…」

「あ…」

スーフィーが『扉』と言った瞬間、目の前に映画館の入り口のような、大きな扉が出現した。

彫刻も細かく、モチーフは動物のようだ。

格調高く、高価な扉を前にして言った。

「全てあなたの胸先三寸って事ね。良いわ、気に入った。乗ってあげるわ、あなたの手のひらで踊ってあげる。じゃまた」

(………)

『バタンッ!』


後ろを振り返る事無く、扉開け、こちらに戻ってきた。

戻った先は、当然、兄の部屋。

行き時と同様、パソコンの前に座っていた。

最後、スーフィーはどんな表情をしていたか?

もうどうでも良く思えていた。

イチイチ気にする方が馬鹿らしい。

「そ、そうだ!時間は?何時…って、ハハッ、ハハハッ…」

パソコンの時間に食いつくように見た途端、自分のモノとはおもえない乾いた笑い声が、勝手に口から漏れていた。

信じられない事に、こちらの時間では、あれから10分程度しか経っていなかった。

(もう数時間経った感覚だった。これとスーフィーの仕事なんだろう。そんなの相手に、無力な私が、勝てるわけないじゃない!)

「ハハッ…ハハハハッ…力があれば、何とでも出来るのかな?私にも力が手に入るのかな?そしたら、スーフィーや兄や…、どうにでも出来るのかな?」

うつ伏せた時に、一筋光るものが流れた。

「今日は疲れたよ…本当に疲れた。もうこのままでいいから寝たい…、その前に慈雨吾を」

ポケットから慈雨吾を取り出し、タオルの上に置いた。

寝そべる事はせず、立ったままで、また鼻提灯を膨らませていた。

それを見て、少し気持ちが楽になったのか?

目から光るものが、数滴流れていった。

スースーと息の漏れる音が聞こえ出すのも、時間はかからなかった。

また新たなアイコン数個。

画面上に展開されつつあったのだが…。

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