第1ー6 No.4.6と4.3
(逃げてばかりは行けない…)
本意ではなかったが、自分のやるべき事の為、
再び兄の部屋の中に入ってみた。
ママと話をしてから、2.3日経っていた。
改めて思うのは、この部屋に物を置かなかったのは、兄がこうなる事を予見していたのでないのか?
あれも消える事を前提としての発言なのでは?
もしそうなら、探さない方がみんなや兄の為にでもなるのでは?…と。
(ママにはあゝ言ったけど、気が乗らない。ほんと迷惑だ。でも分かっている。やらなくちゃいけないって事くらいは…)
気怠い感覚が全身に蔓延する。
それを無理に否定しようとする自分。
もうヤケクソ的な感情でもあった。
(家族なんだから…これがみんなの為なんだし、ヤスナの事だって気になるじゃない!)
真っ直ぐ扉の向こうの未知の世界を見据えて、大きく深呼吸をして、両手に拳を作り気合いを入れ直し、部屋の中へと入っていった。
パソコンの前に座ると、一つ、 以前気付けていなかった事が加わった。
あの時、ネットを開いて向こうの世界へ行く羽目になったが、一体どこのサイトからそうなったのか?自分は全く見ていなかった事だ。
「メール読んだだけで、まさかあんな事になるとは、想定外過ぎでしょ。もうあの手は喰らわないつもりだけど、頼りの慈雨吾はずっと寝たまんま…」
あれから一度も起きない慈雨吾が、少し心配ではあった。
(たまに鼻提灯作ってるけど、少しは話したいと思うよ!)
手に触れた質感は、硬く軽かった。
紐を付けて揺らせば、カラカラ音が鳴りそうな愛らしさと、頼りになりそうな発言は好意と取っていた。
慈雨吾は自分のお守り代わりとして、ポケットに潜ませておく事にしたのだった。
兄のパソコンを起動させ、画面上でクルクルとカーソルを回していると、また新たな発見が!
「何だろ、このアイコン。整列もしてないし…この配置にも意味あるのかな?」
No.1,No.2,No.3…と続く、ナンバリングされた、No.7までアイコンが存在した。
「1から7まであるけど、4のところだけ4.6もあるから、8個あるんだなぁ。こんなの前回あった?よく見てなかったなぁ、こういうところ、本当に私ってドジなんだよね…」
机に肩肘乗せながら、更に言葉は続いていく。
「そう言えば、慈雨吾も4.2だか4.3だとか言ってたね。すぐに寝ちゃったから、本当に疲れてたんだろ。ここの数字と、慈雨吾の数字は同じ意味なのかな?」
更に独り言は続いていく。
しょうがない状況だったとしても、もっとしっかり聞いておけば!という後悔の念も湧く。
そこまで重要とも感じなかった自分の失態に、いささか居た堪れない感でいっぱいだった。
(4から始まる、少数点の意味は?)
数字に恣意的さを感じ、疑問が残る。
No.4とNo.4.6アイコンに慈雨吾の数字。
首を傾げて推測するしかなかった。
「クリックしても404メッセージ…サイトないって事かぁ。この404は関係ないよね。でもサイトじゃなかったら、何なんだろ、数字の意味?それに4.6って、キリが悪いと言うか…ま、数字に罪はないけど」
何の変哲も無いフォルダ式のアイコンをクリックしても、整数アイコンは全て404メッセージで終わってしまった。
この8個以外にもアイコンはあったが、一番この数字が気になって仕方ない。
4.6アイコン以外は、全て検証はした。
結果は何もなかった…。
そして、最後の一つとなっアイコンのところで、自然と指の動きが止まった。
「どこがどう?と説明は出来ないけど、兄貴らしくないっていうか、なんか引っかかるな…」
無駄を排除していた兄の筈なのに、画面上は無駄ばかりが目立つように思える。
表示されないアイコンを、わざわざ置いておくものなのか?
それとも、とても重要な事の暗示か?
自分の顔色に、暗さが増すばかりだった。
記憶にない表示されないアイコン。
不自然さと違和感だけが残る状況。
違和感は募るばかりだった。
今、アイコンに触れるか?触れないか?
それが自分の中での、最大のテーマとなっていた。
( これ、触ったらまた変な事になったりしないかな?大丈夫かなぁ…。もう今日はこの辺で止めておいた方が良さそう?)
「だ、誰かいる?」
あれこれ思案している最中、急に背後から何か気配を感じ、すぐさま後ろを振り返った。
当然だが、誰もいるはずもなく…。
気がつけば、また喉が渇いてカラカラだった。
自然とマウスを握る手に、力も入っていた。
今日のママはお出かけで、帰りは遅くなると聞いている。
パパは仕事で帰りも遅い。
世間では一家団欒であろう時間に、家に一人は寂しい事だが、自分がやろうとしている事には好都合の状況ではあった。
(この日を敢えて選んだのに、躊躇する事は無意味よ。このアイコンを触っても、あの状況には慣れないけど、驚く事も無いだろう。今更感に何を悩む事がある?)
不安リスクを出来るだけ、減らせるものなら減らしたいと、自分なりに考えたのが、今日の行動だった。
おずおずと引き下がる選択肢も頭にはない。
ウジウジ考え込む自分に、自ら喝を入れた!
「女は度胸だ!えいっ」
万が一、もしも?、仮に…と、妄想ばかりしていても、埒があかない。
腹を決め、思い切って4.6アイコンをクリックした。
「。。。何も起こらない、当たり前過ぎて、笑えない。アイコンはアイコンでしたと…考え過ぎてた自分がバカだっただけ。一喜一憂して疲れちゃったし、もう今日は終わろっと」
ただのアイコンを触っただけで、世界が変容する訳など無く、そんなのは常識的にもおかしい事に気づけた自分が、こっ恥ずかしくて失笑もんだった。
クリックしてからの数分間、今もこの身に何も起きない。
くたびれ損だと認識し、電源を落とそうと、画面をいじったその時だった。
暗闇の中に潜んでいた恐れが、自分の思考を支配し始める。
必要以上に思案して疑っていた事が、現実となった瞬間だった。
「え?見えない、真っ暗?」
画面の明かりが消えた。
『ジジッー、ジジッージジッー』
(あ、この音。前も聞い…)
微かな雑音を耳にした。
自分の意識半分は、はっきりしていない状態だった。
一瞬で体が痺れていく。
また強い雷を食らったようだった。
痺れて全身を、微動だにする事も出来ない。
目の前が暗転し、しばらく放心していた、
(またこれ?毎回、全身痺れて動けなくなるの?でも少し前と違う?まだ考えられるみたいだね)
動けないだけで、意識全部が乗っ取られたようではなかった。
風景も確認出来るが、薄目しか開けられない。
全てが見えていない状況、不安が増長し、恐れ慄く自分がいた。
少し垣間見た世界は、また朱に近い赤がふんだんに使用された、だだっ広い空間が広がり、自分を待っているかのように思えた。
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