第4話「門をくぐってすぐ」

 満月が昇るまで、時間は残り少ない。

 別荘に戻り、門をくぐってすぐに、庭園でアンドレアが馬車に繋がれているのが見えた。


 その馬車には……

 ダイアナ様の遺体が中に入っているのね……

 いかにも高級そうな棺が積み込まれている。


 御者台にはセバスチャンさまが座り、その隣りにフレデリックさまが腰かけて、まさに出発する直前で、ハンナおばさまたちが全員そろって見送りのために集まっている。

 そしてそれ以外には誰も居なかった。


「セバスチャンさま! 警察の方々は!?」

「おや、クローディア君! いったい今までどこへ行っていたのですか?」

「警察は!? まさかもう帰ってしまったんですか!?」

「いえ、そもそもお出でになりませんでしたよ」

「……え?」


「警察署に着いて、事故があったと告げましたところ、事故だとわかっているのならば捜査をする必要はないと署長様が申されまして」

「そんな!? だって、あの状況では、わたしがダイアナさまを突き落としたって疑われて……」

「それはありえませんよ。

 私もフレデリック様も見ておりましたからね。

 警察の方も私の説明で納得なされました」


 ガス灯が点り、汽車が走るこの時代。

 警察組織というもの自体が作られてから日が浅い。

 だから頼りなくても仕方がないとは思っていたけど……

 だからってこれはひどすぎない!?


「いくら田舎の警察だからってこんないい加減だなんて、そんなのさすがにありえないでしょう!?」

「私もそう思うのですが、事故でないならこれもまた狼男の呪いだろうと言われてしまいましてね」


「ボクも気になったんで手すりを調べてみたんだが、細工の跡はなかったな。

 ただ、老朽化していたのにちゃんと修理せず、ペンキを塗っただけでごまかしていた。

 だからダイアナが死んだのは庭師の呪いのせいなんかじゃない。庭師の手抜きのせいだ」

「いえ、建物の手入れは管理人夫婦の仕事で、ラウル君の担当は庭だけのはずです」




 それから、揉めた。

 ダイアナさまの遺体を運ぶ先は、フランクさまの遺体が預けられているのと同じ、村の教会。

 その馬車にわたしも乗せていってほしいってフレデリックさまに頼んだら、フレデリックさまが答える前にハンナおばさまが「使用人の分際で何を言っているんだろうね」と横から嫌味ったらしい声を上げて。

 そうしたらセバスチャンさまが「それよりもクローディア君を納屋に閉じ込めたことをきちんと謝りなさい」と怒り出した。

 そりゃあ気にしていないわけじゃないけど、後にしてほしい話。

 ハンナおばさまは部下のメイド三人に責任をなすりつけようとして、メイド三人はハッキリ反論するわけでもなくウニョウニョとただ自分は悪くない、と。

 その態度にセバスチャンさまはイライラを募らせ……

「てゆっかクローディア、もうどっか行っちゃったしィ。もういいんじゃないのォ?」

 というイリスの言葉にセバスチャンさまが爆発寸前になったところで……

「さっさと馬車を出せ!」

 フレデリックさまが怒鳴った。


 そしてわたしはアンドレアが走り出す蹄の音を聞いた。

 ある特殊な場所に隠れて。

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