第3話「うわあああっ!!」

 昼になっても森を歩き続ける。

 寝不足でクラクラする。

 第二の狼男の手がかりは相変わらず得られない。


 こんなまどろっこしいことをしていないで、せっかく銃があるのだから、この銃で警察署を襲撃してラウルを助け出した方が早いんじゃないかしら?

 ラウルを逃がして、それからどうする?

 どこかに隠す?

 どこに?

 クローゼットの中?


 ああ、無理よ。

 警察にだって銃はあるのよ。

 それに警察官はわたしと違って銃を撃つ訓練をちゃんと受けているのよ。


 月が昇る。

 丸い。

 完全な丸ではない。

 それでも丸い。

 満月までは一日分が足りないだけ。


「うわあああああああああああああああっ!!」


 月に向かってわたしは吠えた。

 獣のように吠えた。

 時間を何日も無駄に使ってしまった。


 後一日。

 満月が昇ればラウルは嫌でも狼の姿になってしまう。

 そうしたら……

 ああ、ラウル……

 村の迷信の中で憎まれる狼男は、ラウルとは何の関係もないのに……!!





 別荘に戻ってすぐにセバスチャンさまに呼び出され、再びレディメイドになるよう命じられた。

 メラニーは宝石箱をぶちまけた後もミスを重ねて、ダイアナさまはそのどれもを許してくださったけど、本人がもう辞めたいと言い出したのだ。


 これでダイアナさまの部屋に入れる。

 これでダイアナさまと二人きりで話ができる。

 最後の最後に大チャンスが来た。

 神さまはラウルを見捨ててはいなかったのだ。

 後はわたし次第だ。

 今夜の見回りはメラニーが行うことになり、わたしは早めに寝床に着いた。



 夜中にメラニーがわたしを起こしに来た。

「一緒に来てほしいの。久しぶりだから怖いの」

「久しぶりじゃなくてもそもそも怖がりなくせに」

 今までもそうだった。

 別荘で働き出して、最初はわたしがレディメイドだったからわたしは見回りに参加する必要はなかったけれど、メラニーが当番の時はいつも一緒に回ってあげていた。

 だけどイリスがレディメイドになって、わたしが普通に見回りをするようになっても、わたしの当番にメラニーが付き合うことはなかった。

 でも、ここで突き放すのは可哀想かしら?

 さっきもイリスたちが、フランクさまの幽霊がどうとか言ってこの子をからかっていたし……


「お願いよ、クローディア! 犯人のラウルは捕まったんだってわかっていてもやっぱり気味が悪いの!」


 可哀想。

 馬鹿馬鹿しい。


「嫌よ。わたしは明日に備えて早く寝たいの」

 メラニーが非難めいた声を上げるけど、わたしは無視して布団を被った。


 明日、全てが決まる。

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