第4話「あの……何の話でしょう?」
扉を開けると奥さまは、ネグリジェ姿ではあるけれど裾をきちんと整えてベッドに腰をかけ、何やら思い詰めたような表情でわたしを待っていた。
「クローディアさん」
「はい」
扉を閉めるのを待ちかねたように奥さまが口を開き、だけど言葉が続かず、沈黙が落ちる。
重苦しい。
やっぱりフランクさまが亡くなられたショックで……
「クローディアさん……」
「はい……」
「夫がわたくしのレディメイドにどんな命令をしていたかぐらいわかっています」
「はい?」
「ですが夫は死にました。夫から受け取ったお金は返さなくて結構です。口止め料だと思って取っておいてください」
「え……? あの……」
「もちろん“あのこと”の口止め料ではありません。あなたは何も見ていないですし、何も裏付けられないはずです。夫があなたにあのような浅ましい命令をしたことへの口止め料です。夫がわたくしに疑いを持っていたということ自体が一族の恥になるのですから。家の名誉のために、くれぐれもこの件については口外しないでください!」
「あの……何の話でしょう?」
「とぼけないでください! 足りないのならばこれを持っておいきなさい! まだ足りなければロンドンに戻ってから渡します!」
そして奥さまはわたしに宝石箱を押しつけて部屋から追い出した。
お盆を持って出るはずが、宝石箱を抱えて廊下に立ち尽くす。
自分がいったい何の口止め料を渡されたのか、全く見当がつかない。
わたしがフランクさまから言われたのは、よろしくとか、がんばれとか、そんな普通の挨拶だけ。
もともとのレディメイドがお暇を出されたことと何か関係があるのかしら?
……フランクさまが殺されたことと、何か関係があるのかしら……?
廊下の上、シーツの下に横たわるフランクさまの遺体に目をやる。
フランクさまは大柄でガッシリとした体格をなさっている。
いかにもひ弱そうなダイアナさまに、あんな殺し方ができるとは思えない。
奥さまへのサプライズのためにこっそり別荘にやってきて、同じ時に忍び込んできた泥棒と鉢合わせした。
他にどんな考え方ができるっていうの?
宝石箱の中を覗くと、雫形のイヤリングを始め、金のネックレスやダイヤのブレスレットがビカビカと光っていた。
まさか廊下に置きっぱなしにするわけにもいかず、自分の寝室のタンスの奥にしまい込む。
もちろんこのままもらってしまおうなんてつもりはない。
奥さまが落ち着くのを待って、わたしが何も知らないことをきちんと話してお返しする。
奥さまのアクセサリーを管理するのもレディメイドの仕事のうち。
これはあくまで預かって管理するだけなのだ。
メイドの寝室の窓は裏庭に面していて、番犬がしっかりと繋がれているのが見えた。
ラウルがそうするようにセバスチャンさまに頼んだのだろう。
使用人ひかえ室に戻る気にもなれず、わたしは一人で庭園へ出た。
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