第2話「レディメイド」
浅い眠りで夢を見た。
狼男さんとの甘い夢。
満月の柔らかな明かりの下で抱きしめ合う夢。
その夢は、ハンナおばさまにたたき起こされて終わった。
「メイドがいつまでも寝ていてどうするんだいっ? さっさと着替えてダイアナ様のお部屋へ行かないかいっ!」
「それはレディメイドの仕事なんじゃ……?」
わたしは寝ぼけ眼をこすった。
「何、言ってんだい。アンタがレディメイドだろう?」
「わたしがですか?」
「ダイアナ様に付き添ってきたじゃないか。ロンドンから」
「ただの荷物持ちのつもりだったんですけど」
「だからそれがレディメイドだろ?」
そんなはずない。
だって、奥さまのおそばに常に付き従って細やかなお世話をするレディメイドの仕事は、メイドの花形。
イリスとドリスが奪い合っていたから、二人のうちのどちらかになるものだって思っていた。
「セバスチャン様から聞いていないのかい?」
「何も……そもそもレディメイドを任命するのはメイド長の役目なのでは?」
「今回は特別にセバスチャン様が決めろというのがフランク様のご指示なんだよ」
「ですがハンナさん……」
「ハンナおばさまとお呼びって言ったろ?」
本当は知り合ったばかりで軽々しくおばさまなんて呼ぶほど親しくもなければ親戚でもないのだけど、この呼び方のほうが料理がおいしそうに聞こえるっていう独自の理論と、コックと兼任しているメイド長の権威付けのためなのらしい。
あるいは若いメイドに囲まれてオバサン呼ばわりされても傷つかないように、オバサンと言う単語は悪口として通用しないと、あらかじめ自分で言っておいているのかもしれない。
「ハンナおばさま、そもそもダイアナさまのロンドンのお屋敷でのレディメイドはどうなさったのですか? どうして別荘に来ていないのでしょう?」
「フランク様にお暇を出されてしまったんだよ。フランク様に疑われてしまってね」
「疑う?」
「そんなのワタシの口から言える話じゃないよ。ほら、さっさとお行き。ああ、ダイアナ様がまだ寝ていらしたら起こすんじゃないよ。何度も言うようだけどダイアナ様はお体がお弱いんだからね」
「セバスチャンさまは?」
「とっくに町へ向かわれたよ」
わたしはチラリとメラニーの方を見た。
ロンドンでの打ち合わせでレディメイドの地位を巡ってイリスとドリスが火花を散らしている横で、メラニーも、おとなしい子なので口には出さなかったけれどもやりたそうにしていた。
でも今は、寝ているフリをしていた。
「言っとくけど、他の子を起こしてみんなで行こうなんて考えるんじゃないよ! 大勢で押しかけたんじゃあ失礼に当たるし、そもそもダイアナ様は一人になりたいと言ってお部屋に閉じこもっておられるのだからね!」
「わ、わかってますっ」
そしてハンナおばさまは台所へ戻っていった。
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