第17話 可能性のケモノ

そのころ、友達になったセミの幼虫と別れた双子の弟ドッコイは、音のする方へと歩いていました。

 頭の上に乗っている不思議なアリの力で、迷いもせずにすいすいと音の方へ向かいます。


「うはあ!」ドッコイは思わず叫んでしまいました。地面の中に大きな町があったのですから当然です。

「ここはどこだろうね? スットコはいるかなあ?」

 ドッコイは頭の上の魔法のアリに向かって話しかけますが、アリは触角を揺らすだけで無反応です。

 と、そこへ、白いフードを目深にかぶった人たちがぞろぞろとやってきました。その白い人たちはドッコイを見つけると、なにやらひそひそ話を始めます。

 何の話をしているのだろう?

 不思議に思った、いいえ、なによりも話の通じそうな人たちに会ったのですから、ドッコイとしては話しかけないわけにはいきません。

「あのー、すみません」

 そう切り出したドッコイに白い人たちは一旦話し合いをやめてドッコイの方を見ました。

「ひぃ!」ドッコイは思わず声をあげます。

 ……なぜってその顔には、「目」がなかったからです。



 一方、女王さまの部屋で、女の子は赤い目で双子の兄であるスットコをじっと見つめてから話しかけます。

「お前はふしぎなことをいうナ」と、それから「ニンゲン、ってみんなそうなのカ?」

 そう続けました。スットコは苦しそうに眉を寄せると、「分かんないよそんなの」と答えました。

 そもそも「ジユウ」や「カノウセイ」という、たった今女王さまの言った言葉の意味が正直分からないのですから。 

「でも!」

 怒ったようにスットコは続けます。

「ヘンだと思ったの!」

 それは掛け値なしのスットコの本音でした。目の前の女の子は自分と何も違わないとしか思えないのに、やることが、人生がもう完全に決まっている。そのことがなんだかたまらなくイヤだったのです。


「それは人間が不完全だからです」女王さまは優しく、教え諭す口調でスットコに話しかけます。

「モノには、向き不向きがあります。正しい場所で正しく活動しているからこそ、私たちは生きながらえているのです。……それを人間はその場の思い付きで破壊します。木を伐り、山を壊し、川をさらい、土の上に石を敷き詰めてその下に住む者を殺す……。それは人間が自由を求め、新しい可能性を求めた結果なのですよ」              

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