第15話 優しいほほえみ

「つまり…」

 ドッコイは今一つのみ込めないような顔で女の子を見ます。

「つまり君は、特別で、……お姫さま、ってことなの?」

「もちろんそうサ、エヘン」そう言うと女の子は胸を反らしてえらそうに腕組みします。そのポーズがあまりに似合わなかったものでドッコイはつい吹き出してしまいました。 

「なんで笑うんダ!」

「だって面白いんだもの」

「なんだト!」

「うふふふふ」


 じゃれあう二人を見て、女王さまはにっこり笑いました。

「ドッコイさん、お兄さまのことが何かわかるまで、こちらで待っているといいでしょう。飲み物も用意させますよ」

 女王さまは優しくそういうと、隣の部屋を指さしました。 

「姫の部屋ですから、そこで姫と遊んでやってね」

 年下の女の子と遊ぶのかあ、と思いもしましたが、しかしいまここで何かアテがあるわけでもありません。ドッコイはぺこりと頭を下げて、「ありがとうございます」ときちんと言いました。


「いいのよ、気にしないで」女王さまは言うと、女の子が「こっちダ、こっち」と言いながらドッコイを呼びます。

 来た扉とは別の扉を通って女の子の部屋へと行くのです。そのためには女王さまの後ろを通ります。そこでドッコイは何かを踏みそうになってあわてて足を上げました。

「?」乳白色のぷるぷるした何かです。

「おい、気をつけろヨ、それは女王さまのお腹なんダ。触ったらダメだゾ」

ドッコイはぎょっとしました。確かに女王さまの腰から下は、虹色に輝く美しい布、レース編み、やわらかそうなクッションで隠されていました。だからそれがまさか、その乳白色にうごめく肉のかたまりが女王さまだとは、ドッコイが驚くのも当然でしょう。

 いや、それより何よりも、それが女王さまのお腹だとしたら、どれほどの大きさなのでしょうか? ドッコイとスットコ、それにお母さんと三人で使っているダブルベッドよりも大きそうです。


「えええ? うそだあ!」

 ドッコイの反応も当然でしょう。

「ウソなもんカ!」そういうと女の子は女王さまに確認をとるように「ネ?」と問いかけます。


「そうよ、これはわたしのお腹。わたしはここでこうやって、子供たちを生んでいるの。そしてわたしが死んだら、『姫』が私のあとを継いで、子供たちを生むのよ」

 

 女王さまは美しくほほえみました。とてもとても、優しいほほえみでした。

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