第13話 スットコの冒険 3
巨大なセミの幼虫はスットコを見ました。
「私は、一人でこの場所にいた。『私以外』を見たのも君が初めてなんだよ」
「へえ」スットコは驚きます。生まれてから、いいえ、生まれる前から双子の片割れのドッコイと一緒にいるスットコにはちょっと想像もつかない話です。そして、なんとさびしい話でしょうか。
「さびしくないの?」
ついそのままきいてしまいます。
「さびしいかって? それは不思議な事をきくなあ。私にとってそのことは『そういうこと』でしかないからね。さびしいもさびしくないもないんだ。いや、もちろん地上に出て仲間に会うのは楽しみさ。けれど今は……そうだな、ああそうか、君は……スットコはさびしいんだね」
セミの言葉にスットコはドキッとなり、急にそのことに思い至りました。今まで気づかないふりをしていただけで、ドッコイと分かれて当然さびしくないはずはありませんもの。
けれど「別に、平気だい!」とスットコは強がります。
セミは何もかもを見通したような口調で話しだしました。
「ああ、そう言われれば私も急にさびしくなってきたような気がするなあ。……うん、さびしくなってきたぞ。一人ぼっちはさびしいな。そうだ、私にもきょうだいがいっぱいいるはずなんだ。今年の夏、みんなに会えるのがすごく楽しみになってきた。そしてきょうだい以外のみんなにも。……ねえスットコ、私は思うんだけれど、『こうふく』とは何かに気づくことなんだと思うよ。どこかで売っているとか、誰かに与えてもらうようなものではなく、ね。だからスットコ、ありがとう。私に『さびしさ』を気付かせてくれて」
スットコはキョトンとした顔です。「さびしくてありがとう」とはどういうことでしょう。スットコにはちょっとわかりません。そんな様子のスットコを見てセミはまたふ、ふ、ふと笑いました。
「そうだ、君と同じ声があちらの穴から聞こえてきたよ。もしかしたら君の言っていたドッコイ君なのかもしれないねえ」
「ほんとう?」
「もちろん」セミは(胸にある)耳を木の根っこに押し当てると、聞き耳を立てます。「間違いない。そこの穴を入って、つぎに右の分かれ道を行くんだ」
「ありがとう!」
「こちらこそどういたしまして」
スットコはセミに手を振って別れを告げました。
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