第11話 スットコの冒険 1

 そのころスットコは怒っていました。

 「んもう!」と声に出してもいます。

 どうしてドッコイはいないのか、なんではぐれてしまったのか、心細いじゃないか。というところですが、ここでめそめそ泣くのではなく怒り出すのがスットコなのです。

 ドッコイと同じように頭の上に不思議なアリが乗っていますから、どんな暗闇でも昼間のように見えます。その目に映るのは、土で出来たせまっ苦しいトンネルでした。今にも崩れ落ちそうですが、そんな状況も心細さを加速させます。

 そういったときに、スットコはまた怒ります。


「なんでだよ! もう!」と。


 すると、遠くから何か声が聞こえてきました。

「うるさいぞー」と。

 うるさいとはなんだ! ぷりぷりとしたスットコはその声の元へと一目散。

 崩れそうな通路についてなんて考えもしません。ぴゅうっとすばらしい速度で駆けていきます。 やがてその足がピタッと止まりました。ごうごうと水の流れる音がするからです。なんだろう? 滝でもあるのかな? そう考えた時です。

「おやー、誰か来たのかなあ?」

 と間延びした、どこか優しそうな声が聞こえてきました。さっき「うるさいぞー」といった声に違いありません。

 ひとこと文句を言ってやるんだ!

 そう決意したスットコはずんずんとトンネルをいき、そして、口をあんぐりと開けて見上げました。

 目の前には大きな空間が広がり、その中に、見上げるほどもある象牙色の何か巨大な生き物がいたからです。

 そしてその巨大な生き物は巨大な木の根っこにつかまり、針のように細い(と言ってもスットコの腰ぐらいの太さはありますが)くちばしでその根っこから樹液を吸い上げているのです。

 ごうごうという滝のような音はこの生き物が吸い上げている音なのでした。

 

すっかりたまげたスットコは、しばらく呆然とその光景を見ていました。お母さんと行った動物園で見た象の倍くらいはあるでしょうか、こんな大きな生き物がいるなんて、図鑑でも見たことはありません。

「おーい、お客さん」

 生き物はおなかを振るわせてしゃべっています。(なにせ口は根っこに突き立ってますもの!)

「なにか用かい?」巨大な生き物……スットコは気づきます……セミの幼虫がスットコにふたたび尋ねました。                     

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