第6話 キノコを食べると?

スットコとドッコイは双子の兄弟。お母さんから「こうふく」を買って来いと言われた双子は、穴の中へとすってんころりん!

 その穴の中では女の人がキノコを食べていました。

 ――不機嫌そうに女の人はじっと二人を見ています。お母さんと同じくらいの年齢の、髪の長い美人の女性はもう一口キノコをかじると、よく噛んで飲み込んでから、


「どこの者じゃ?」とそう聞きました。


「ぼくはスットコ!」「ぼくはドッコイ!」双子は自己紹介をします。


 女の人はふうん、と言うと、しげしげと二人を見ました。 

「地上の者か」女の人はそれから、双子の頭に乗っているアリを見て、いやそうな顔をします。

「おぬしら、あの男の知り合いか?」

 あの男とは誰でしょう? 

「アリの王とか名乗っている酔狂なじじいだ」

 アリの王様なら知っています。でも今さっき知り会ったばかりだよ、とスットコが説明すると、女の人は「ならばまあ、構わんか。……飯の邪魔だ、どこかへ去ね」そう言うとしっし、と追い払おうとします。

 けれど気になったのはドッコイ。

「おばさ…おネエさん、そのキノコは何なの?」

 女の人は七輪であぶっているキノコに醤油をたらしました。じゅっと焦げる音がして、いい香りが二人の鼻にまで届きます。

「このキノコか?これはアリが作っているキノコじゃ」 

「アリ?」 

「そうじゃ」

「え?」「ええっ?」 

「なんじゃ、どうした?」

 スットコは抗議します。


「ウソだあ! アリがキノコなんか育てるわけないよ」


「ウソなものか、このアリどもは五千万年前からキノコを栽培しておる。おぬしら人間は、一万年前まではそこら辺にあるものをほじくり返して食っておったではないか」

 と(まるで見てきたようなことを言ってから)そこで、女の人は目を輝かせました。

「そうじゃ、おぬしらも食ってみい。うまいぞ」今までとはうって変わって優しそうな口調です。でもスットコもドッコイもこういう口調の時のお母さんが「良くないこと」(注射とか、歯医者さんとか)を考えていることを知っています。

 それに何より、

「いらない! ぼくらキノコきらい!」「そうそう」

 二人はキノコが好きではなかったのです。お母さんに怒られれば食べるけど、そうでないときは食べたくありません。


「そうか、残念じゃのう」女の人は美味しそうにキノコをほおばりますが、その顔には『いたずらに失敗した』と書いてあります。

 

どうやらスットコとドッコイは食べず嫌いのおかげで難を逃れたみたいです。 そうそう、でもこの女の人にも、あのことを聞くかなきゃ。 


「おネエさん、『こうふく』、売ってる場所知りませんか?」 


「幸福、とな」

 女の人は意外そうな顔をして、それからフフフ、と笑いました。

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