第3話アリの王様

 スットコとドッコイは双子の兄弟。お母さんから「こうふく」を買って来いと言われてお家を出ました。

 ところが右手の森から不思議な声が聞こえます。

 

「なんだろう?」「なにかしら?」二人は森の中を進みます。

 森といってもいわゆる「鎮守さま」ですから、二人だってちっとも怖くはありません。でも、不思議な声は不思議です。

 どうなっているのかな? 二人は顔を見合わせて、こっそりとその声を出している人を大きな岩ごしにのぞき見ます。


「おう、いい子だ」「そらそら、こっちだぞ」「いかんなあ、ここにあるぞ」


 長いひげを生やした、見たことのないおじいさんが地面を見つめてそんなことを言っているのです。

 でもその声は優しげな、ちょうど幼稚園の先生が双子にかけるときのような様子でしたから、双子は岩陰から身を乗り出すと、そのおじいさんに声をかけたのです。

 いえ、かけようとしたところ、そのおじいさんはぐりっと首を回すと、二人の方をぎっとにらみます。

「ひえっ」スットコもドッコイも思わず声を出しました。出してから、確かにのぞき見はよくなかったと思いなおします。


「おじさんこんにちは」

「ぼくはスットコ」「ぼくはドッコイ」と、ぺこりとあいさつ。


「おう、双子か。珍しいな、ワシは『アリの王様』だ」

 長いひげのおじいさんがそんなことを言い出したので、双子はびっくり仰天。


「王さまなの?」「ほんとに?」そりゃあ疑っちゃうよねえ。

「疑うなかれ、ワシはアリの世界の王なのじゃ。ほれ、見てみろ」 

 こいこい、と手招きする王様に双子は怖さ半分、興味半分でやってきます。


「うわあ!」

 来て見てびっくり。確かに王様の周りには大きいアリ、小さいアリ、もっと小さいアリがびっしりと歩き回っています。こんなの見たことありません。


「キモイ!」「キモイ!!」

 と双子は半べそでアリを踏みにじろうとしますが、おじいさんは「喝っ!」と鋭い声を出します。

「お前ら、いやお前らだけでもないか、何で子供ってやつはアリたちを殺そうとする?なーんも悪いことはしとらんじゃないか」アリの王様の言葉はもっともです。スットコとドッコイも考えてみたら、なんで今までアリを踏みつぶしていたのか、よく分かりません。

「アリといえど生きておる。そのことを忘れないでおくれ」アリの王様の言葉に「分かった!」と元気よく答える二人です。


「ところでお前らはどうしてこんなところにいるんじゃ?」


「うん、それはねえ…」スットコが言うと、アリの王様は大きく笑いました。

「なんじゃ、そんなことか。幸福はあそこに行けばあるぞ」と言ったのです。

 その言った内容というのは……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る