第5話 疾風の如く切り裂く刃

 私は儀式台に儀式用の白いドレスを来てそこに立っていた。

 神輿に担がれて私に付いてきていた村人達ももう村に帰った。

 色々な謝罪の言葉を言う人もいたが、やはり妖魔と相対するのは怖いのだろう。

 後ろにいるのは儀式の執行を見届ける儀式の執行人だけだ。

 これで良かったんだと思う。クーガさんは生きて村から出られるんだし、村人達も守られる。

 彼が私を救ってくれるというのはちょっとした夢ではあったけど…

 まあ、仕方ないかと思う。

 だってそんな事は夢にすぎないのだから。

 夜が深くなり半月が強く輝く、そのとき大きなうなり声が聞こえた。

 黒い覆面を被った儀式執行人が手をあげる。

「偉大なる妖魔グラス様、我らが月が二分にされる時に生け贄を捧げに参りました。」

 大地が割れるその中から巨大なものが飛び出してきた……。

 形容するならば蛇だろうかただその大きさは蛇などとは段違いのものであり、茶色の堅固な皮膚を持っている。

 数十mその巨体はまだ大地から出きっておらず、とてつもない威圧感を与えてくる。

 土の中から出てきたは巨大な目を見開きこちらを見た。

“これが今回の贄か……”

 その声は大きく回りに響くような声だった。強い威圧感がある…私はその声に震えてしまった。 

 だが耐えないといけないとグッと唇を噛む。

「その通りでございます、グラス様、今回はグラス様の仰せの通りこの娘の右目を先に奉納いたしましたがいかがでしたでしょうか。」

 その言葉で私の右目が痛んだ。えもいわれぬ右目をくりぬかれた時の激痛、その痛みで生け贄になる前に死んだほうがマシだと思った事もあった。

“素晴らしいものであったぞ、その女なら素晴らしい素材になるだろう”

「それは良かった。では我々の村への妖魔の不可侵をこれからもよろしくお願いします。」

“よかろう、ではいただくとしようか”

 その妖魔の蛇のような頭が私の方に向かってくる。

 その時、私は色んなことを思い出した。お父さんのこと、お母さんのこと、友達のこと、宿のおばさんの事、そして荒野で倒れていたちょっと変わった人の事。

 これが私の一生の終わりなんだなぁと感じた……。

 あっけないものだと思った。

 妖魔の顔が近づいてくる。

 怖い、怖くて怖くてたまらない。

 でもじっと耐える。

 そうして妖魔の口が私の頭を触れた時、キキーって音が聞こえた。

“なんだ?”

 妖魔がその音のなった方向を向く、私と執行人もその方向を向いた。

 その瞬間、巨大な車が妖魔めがけてぶつかっていた。




 儀式の場所を特定するのは簡単だった。

 儀式の祭壇から帰ってきていた村人を問い詰めればすぐに答えを聞くことができた。

 それで俺は全速でトレーラーをその地に向かわせた。

 とにかく妖魔に彼女が殺される前に着かなければならかった。

 そうして目的地に近づき彼女を発見した時、彼女はもう妖魔に食われる直前だった。

 後ろの奴に乗り換えている暇はない、ならばどうするか。答えは簡単だ。

「いっけぇぇぇーーーー!!」

 全速で俺はトレーラーで奴の顔めがけてぶつけた。

 全重30t近くあるトレーラーだ、いくら妖魔といえどもこれの突撃を受ければ無事でいれないだろう。

 それと同時にバックパックから取り外しておいた閃光弾を投げつける。

 目くらましによる時間稼ぎだ…。

 妖魔が呻く。

 効果はあったようだ。

『あいつ』を動かすなら今、この数少ない時間しかない!

 俺はすぐ後ろの貨物エリアへの扉を開き、その中にいる『相棒』の中に入った。




 起動プログラム

 認証パスワード……認証

 網膜スキャン……本人と認定

 搭乗者心拍数……安定

 機関……第一、第二、第三――全始動


 各部のチェックなどしている暇は無い。

 そんなことをしていたらミムは殺されてしまう。

 だから――


 PAM起動チェック……省略

 各部チェック……省略

 チェックを省略した為、PAMの使用は不可となります

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 ―――――――D―42 スラッシュゲイル起動準備完了




 その機動準備完了の合図と同時にトレーラーのコンテナが開かれる。

 その中から現れたのは強い鋼のフォルムを持つ巨大な機械、人を妖魔から守る為に人が作り上げた対抗手段。

 人はそれを鋼機もしくは人を守る為の巨大な機械の鎧、『鋼鎧』と呼ぶ。

「飛べ!スラッシュゲイル!!」

 そして、妖魔に向けてスラッシュゲイルは飛躍した。






 私の目の前に現れた大きな人型の機械は私の前にいた妖魔に殴りかっていくのがみえました。

 機械の右腕から大きな破裂音がするのと同時に妖魔が吹き飛んでいきました。

 あまりにも大きくて恐怖の対象だった妖魔が揺らぎその衝撃でうめき声をあげます。

 そしてその機械からスピーカーを通して声が聞こえてきた、その声が私にはすぐ誰のものか理解する事が出来ました。

 だって、それは――

「悪い、色々心配させたみたいだけど君を救うって約束、今から君を縛っている元凶を倒すことで守るから、ちょっと待ってて。」

 酷いなぁ、私もう死ぬ覚悟してたのに…。

 あなたが来てから私の覚悟って全部馬鹿みたいなモノになっちゃってるじゃないですか……。 

 だから、私はこういいます。

「わかりました、でも負けたら承知しませんからね!!!!」

 大声で叫びました。精一杯叫びました。

 そうすると彼はいつもと同じような口調で…。

「ああ、それは大丈夫、こんな雑魚に俺が負けることなんてないさ。だから安全なところに離れていてくれ。」






 そういって彼女に謝罪した後、俺は即座に敵を確認した。

 妖魔には六つの系統がある、獣種、翼種、泥種、水種、魔種、異種の六つだ。

 妖魔との戦いはまず相手がどの種であるかを確かめることから始めなければならない。

 種によって有用な戦法が違うからだ。

 目の前の妖魔は土の中から出てきており、巨大な体をしている。眼前にいる妖魔は十中八九、泥種だろう。

 本音を言えば、今のスラッシュゲイルの状況ではあまり相手にしたくない系統の敵であった。

“貴様ら、我を謀ったな!!”

 目の前の妖魔は怒りを露にする。

 そこで近くにいた儀式の執行人が妖魔の前に来て叫ぶ。

「違うのです、グラス様、これは我々はまったく存知えぬこと、村はこの件にまったく関係ないのです。」

“笑止、そのような戯言信じられるか!”

 そう言って尾で執行人を潰してしまった。

「ちっ……。」

 殺したいと思っていた奴でも目の前で死なれると嫌なものだ。

“ハハハ、鋼の機械乗りよ、この男のような末路を次は貴様が辿るのだ!”

「ああ?さっきも言っただろ、俺は雑魚ごときに負けることなんて無いってな。」

 そう言い返す。

 泥種の攻略法、それは奴らが普段土の中に住んでいることにある。

 つまり泥種は基本的に暗闇の中で生活をしているのだ。ゆえに泥種の目は光に弱い。

 閃光弾を喰らわせられれば簡単に目が潰れる。だがさきほどの閃光弾では奴の目は潰せなかったらしい。

 ならば閃光弾での攻撃は使えない…どうするか…。

 俺は機体の腰にある刀を抜いた、この機体に乗る前から使っていた祖父から受け継いだ鋼機専用の巨大な刀だ。

“ほう、そのような小さな刃で我の巨体が斬れるとでもいうのか?”

 目の前にいる妖魔グラスは笑い声をあげる。

「試してみるか?」

“その必要も無い、我を雑魚と評した事を永遠に後悔して死ぬがいい!!!”

 泥種の二つ目の弱点、巨大な肉体を持つ彼らだが攻撃手段に非常に乏しいのだ。

 大抵の泥種の攻撃はその巨大な体と重さを活かした体当たりがメインになる。

 一撃が致命的になる事も多いがそのため攻撃も読みやすい。

 ならばその体当たりに狙いを合わせれば……。

 来た、突撃だ、出来るだけ慎重に合わせなければならない。

 紙一重の領域まで奴を近づける。

 そこで回避し斬撃を合わせる。

 それが思いつく限りの最善の策といえた。

 妖魔がこちらをめがけて突撃してくる。

 その重さ、大きさからして直撃すればいかにスラッシュゲイルとはいえだたではすまないだろう。

 距離が縮まる。

 残り50m……40m……。

 まだだ、もっと引き付けないといけない……。

 20m。

 ここで回避したら奴に俺の行動を悟られてしまう……。

 10m。

 あと少しだけ、あともう少し…。

 5m。

「今だ!!」

 俺は緊急ブーストをかけて機体を右方向に全力で回避させ、それと同時に斬撃を放った。










 回避に成功、斬撃は命中した――だが

“グォォォォォォ!”

 妖魔の叫び声がこだまする。

「ちぃ……」

 浅かった。

 タイミングをはずしたわけでもない、予想以上に奴の反応が高かったのだ。

 本当ならばその一撃は妖魔を切断しているはずだった。

 だが妖魔の3分の1を斬り込んだだけに終ってしまっていた。

“貴様、貴様ぁ!”

 どうする、千載一遇のチャンスを逃してしまった。

 だが奴が今手負いな事には代わりが無い。

 今の攻撃はもう通用しないだろう。

 ならば今、畳み掛けるのがチャンスか?

 奴は体を反った、また体当たりかだろうか?ならばチャンスだ…そう思い俺は刀を再び構える。

 そうして奴は突撃してくる。集中する、このチャンスを逃す手は無い。

 だが奴が突撃したのはスラッシュゲイルのいる方向ではなく――

「しまった!!」

 俺は一つの可能性を失念していることに気づいた。





 向かった先で笑い声を上げながら妖魔は何かを食べていた。

“くくく、まずいな、下衆な人間の血肉の味は酷いものだ、やはり人の肉は若い者に限る”

 妖魔グラスが向かった先にあったのは先に自身が潰した儀式執行人だった。

 その死骸を喰らうのと同時に妖魔の体にあった大きな斬傷はすぐさま癒えていく。

 何故、妖魔が人を喰らうのか?

 別に人間を喰わなければ妖魔は生きていくことが出来ないというわけではない。

 それは妖魔にとって人間は良薬であるからに他ならない。

 人間の血肉は妖魔が体に取り込むといかなる難病や重傷を治す、奇跡の妙薬なのだ。

 ゆえにあの村は人間という薬の養殖場として妖魔に扱われていたのだろう。

「ちぃ……。」 

 戦いは全て振り出しに戻った。

 いや、こちらの手の内を知られた分、こちらが不利になったと見るべきか。

 奴を倒す事が出来る必殺の武器があるとしった今、奴はもう手を抜かないだろう。

 そら案の定――

“我は貴様を侮っていたようだ、だがもう我は驕らぬ、最初から全力を持って汝を殺してくれる!”

 こんな事をいってくる始末だ……。

 そして、その発言と共に妖魔は大地へとその身を沈めた。

 奴の狙いは地中を移動しながら行う奇襲だろう……。

 スラッシュゲイルのシステムにアクセス、集音率を高める。

 この地帯は基本的に気温が高い。

 その為、地面の温度も高くなっており、熱反応を探知するのでは地中に潜った妖魔を探し出すのは困難なのである。

 ゆえに用いる手段は音、地中を掘り進むその音を探知し、位置を特定する。そしてその音から攻撃を回避しカウンターに出る。

 それが今思いつく最善の策だった。

 奴は縦横無尽に大地を駆け巡っている。

 かく乱だろうか?集中しなければならない……音が俺の命を繋ぐ……。

 右後方で奴の動きが止まった。

「来るか!!」

 即、右後方に向きを変えて構える。

 攻撃に備えなければならない。

 だがそれと同時にスラッシュゲイルの背後から妖魔が大地から現れた。

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