第4話 たった1つの答え

 目を覚ます……俺が起きたところには彼女がいて…笑いかけてくる。

「まったくあなたが朝に弱いのはあいかわらずですのね」と呆れた顔で言ってくる。

 まったくこの人も相変わらず、自分の立場を理解しているのかわからない人だ。


 ―――


 目を覚ます……俺が起きたところは鋼機の中で、目の前には鋼機が一体いて襲い掛かってくる。

 そしてあの男が下劣な笑い声を上げて言う。

「所詮、貴様はあの男の血を引いている、そんな男に誰かを守ることなどできんよ。」


 ―――


 目を覚ます……円盤上、決闘場、あの男との最期の戦いの場所。

 己の存在意義を賭けた戦いに負けた男はこう言って奈落の底に落ちていった。

「さよならだ、クーガ……お前は俺にはなるな……決してな……。」


 ―――これは今じゃない!


 そうして俺は目を覚ました。

 そこは石と鉄で作られた部屋だった。

 自分の前には回り一面が石で作られており、窓は存在しない。

 目の前にあるのはただ一つ鉄格子で作られた壁だった。

「臭いな。」

 俺はついそう呟いた、酷い腐敗臭がする。もう片付けてあるがどうもこの部屋には死体がおいてあったようだ。

 例の逃げ出した人の見せしめに殺された人のもののだろう。

 ならば、ここは村の牢獄だろうか…。

 頬を思いっきり叩く、痛い…夢じゃないと安心する。

 そうして自分が何故ここにいるのかという事を考える。

 バラバラになった記憶をかき集める。そして結論を出す。

「そうか、俺は捕まったのか……。」

 後頭部に痛みを感じる、どうやら俺は後ろから棒のようなもので殴られて気絶してしまったらしい。

 思えばミムと感情に任せて口論してしまったのは失敗だった。

 隠密行動をしなければならなかったのに彼女を前にしてついそれを忘れてしまった。

 まったくこれでは素人だ……。

 彼女はどうしているのだろうか、そもそも俺が気絶してから一体どれぐらいの時間が経ったのだろうか……。

「やあ、あんた起きたのかい。」

 そんな事を考えていた時、鉄格子の前に黒い覆面を被った男が現れた。

「あんたは?」

「くくく、俺かい?俺はこの村の儀式の執行を一手に任されている。あ~儀式ってのは何のことかわかるよな、彼女から聞いてるんだろう?」

「なるほど、あんたがこんな腐った事をやってる張本人か……。」

 そういうと前の覆面の男は笑って

「腐っただって?俺は感謝される立場だぜ、この村が生き残る為の汚れ仕事を全て一人でやっているんだ、くくく。」

 こいつの喋り方を聞いているだけで腹が立ってくる。だが落ち着け、今はそんなくだらない怒りに身を任せる時じゃない。

「二つ聞かせてくれ、俺が気絶してからどれぐらいたった、そして彼女…ミムはどうしている。」

「いいぜぇ、教えてやるよ。俺は優しい優しい執行人様だからなぁ。まず一つ目、今ちょうど貴様が倒れてからちょうど一日がたった所だ。」

 一日、そんなに俺は寝ていたのか……ならばミムは……。

「次に二つ目の質問、安心しなぁ……まだお前の大事な大事なミムちゃんは生きてるよぉ、ちょうど今から儀式の祭壇へ移動するところだ。そこで我らが妖魔様に生け贄を捧げるのさ。まったく可愛いものだぜ、気絶したお前を見てクーガさん、クーガさんって泣きさけんでいやがった。あんまりうるさいんで一発殴ってやったよ。女の子を殴るって気持ちいいもんだなぁ。自分より弱いもの力で屈服させる時のやっちゃったという感覚ぅ?もうたまんないねぇ。」

「てめえ!」

 腹が立ったなんてもんじゃない、今すぐこの糞野朗を殴り殺してやりたい感覚に襲われた。

「おー怖い、怖い、俺が憎いかい?殺してやりたいかい?無理だなぁ、無理だよ、この鉄格子がある限り、人間である貴様は俺に触れることすらできない。悔しいねぇ~ぐへへへ。おっと、そうだそうだ、わざわざ儀式前に俺がここに来たのはお前の可愛いミムちゃんのお願いをお前に伝える為だ。本来ならお前は殺されるところなんだがミムの願いで殺されるのは無しになった。俺は優しいだろぉ、これから死ぬ人間の最期の望みを叶えてやるんだからなぁ。」

 助けるはずの側が逆に助けられたっていうのか?

「お前の解放は儀式の後だ。全てが終った後に荒野に放り出してやるよ…四肢を切り落としてなぁ!いや、俺は彼女との約束は守ってるぜ。生きてこの村から出してあげてるんだからなぁ。そうしてお前は四肢をもがれて荒野に投げ出されるんだ。動くことが出来ないお前は干からびて死ぬのさ。いやその前に出血死か?考えただけで興奮しちまう、あ~小便ちびってしまいそうだぁ~。」

「この糞野朗!!!」

 鉄格子の奥いる奴に殴りかかった、殴れないなんてことは考慮に入れなかった。案の上拳は鉄格子にぶつかり激しい痛みを感じさせる。

 当たり前の話だ、だがそうしないと俺の気がすまなかった。

「お~怖い、怖い、じゃあな坊主、俺は今から儀式に向かう。お前が救うといっていたミムを殺してこの村を救ってやるよ、ヒャヒャヒャ。」

 そうして覆面の男は笑いながら去っていった。






 もうあの男が去ってから30分ぐらいだろうか…。

 牢の前には見張りの男が一人座っている。

 手持ちの武器や道具は全て奪われている……。

 ここから脱出する手段が無い、いや…そもそも脱出したところで今から彼女の元に間に合うのだろうか……。


 ―俺が必ず、君を救ってみせる―


 その言葉を思い出して俺は床を殴った。拳が痛い。だがそれでも構わず何度も殴った。

 なにが、必ず君を救う…だ。そんな事を言ってるそばからこの様じゃないか。

 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう

 そう思って床を殴りつづける。


 ―生きたいですよ!生きたいに決まってるじゃないですか!!―


 彼女は泣きながらそういった。逃れる術があるのならこの運命から逃れたいと……。

 あまりに役に立たない己の力を嘆く、所詮力などあったところで使えなければ意味を成さないのだ。

 ちくしょう!ちくしょう!!ちくしょう!!!ちくしょう!!!!!

 拳の感覚が麻痺する、その手は青く腫上がっていた。皮なぞもう剥けて、血がにじみ出ている、そろそろ骨が折れるかもしれない…だが構わず殴り続けた。

 ―所詮、貴様はあの男の血を引いている、そんな男に誰かを守ることなどできんよ―

 その言葉が頭に響いて、俺は床を殴る拳を止めた。

「俺は誰も守れないのか……じいちゃん……。」

 ふと祖父を思い出し、そんなことを呟いた時、大きな爆発音がなった。



「しゅ、襲撃―ぐは。」

 鉄格子前で見張りをしていた男は突如現れたもう一人男のボディーブローの一撃で床に落ちた。

「よう、元気にしてるか?」

 その突如現れた男は俺の方に向いて飄々とした態度でそう言った。

「あんたは?」

 知らない人間だった。背は180cmぐらいだろうか。黒い髪に蒼眼の男だった。どうやら向こうは俺の事をしっているようだ。

「俺様か?ああ、すまん、そういやお前はまだ俺様の事を知らないんだったな、俺様はシャドウミラージュ部隊のセイムだ。」

 シャドウミラージュ、俺の任務はその部隊に接触しその部隊長の指揮下に入ることだった。

 つまりこいつはその部隊の……。

「いやぁ、お前が王都から出たっていう話を聞いて継地でお前を待ってたんだが、あんまりに遅くてよ、俺様の可愛い娘ちゃんが整備中なんで暇だから様子見に迎えに着てみたら、発信機の付いてたお前のトレーラは荒野の真ん中で故障してほっぽりだされてるわ、当の本人は近くにあった王国の認知外の村にいて牢屋にぶち込まれてるわで、凄いって噂を聞いてどんなとんでもない奴かと思っていた新入りさんがこんなんで俺様びっくりだぜ。」

 そんな事を言いながらセイムは牢の鍵の部分になにかをペタペタと貼っていた。

「俺だって、今自分の情けなさを痛感してたところだよ…というか何だ?その凄い噂って奴は?」

「いや、ウチの部隊には凄い噂好きの女がいてさぁ、こいつがまたうるさい奴で新入りは凄い奴だって話をしてくるんだよ、おい、今から爆破するからちょっと離れてろ。」

 ペタペタと貼った粘土のようなものに棒を突き刺してセイムは牢から離れる。

 俺もそれに従い後ろの方に下がった。

 セイムが手に持っていたスイッチのようなものを押すと同時にその粘土は爆発し牢の鉄格子の扉は爆破された。

「ふう、これでよし。出て来れるぞ。」

 俺はその声を聞いて牢から出た。

「すまないな、助かった。」

「別になんてこともないさ、これからは俺様達は運命共同――ってお前その手どうした。この村の奴らにやられたのか?」

 と俺の拳を見てセイムが驚く。

「いや、これは自分でやった、腹いせにモノにあたったらこのザマだ。」

「かーっ、馬鹿なことやるねぇ、マゾの気でもあるんじゃねえの?嫌だぜ、噂の新人がそんな変態だってのは……。」

 嫌いなタイプの人間じゃないが、どうも……いや、とにかく今は――

「悪いが話は後にしてくれ、俺には急いでしないといけない事がある。」

 そう言うとセイムは少し押し黙る。

「お前がこの村にいた事と関係あるのか?」

 俺は押し黙る。

 今、この村の現状を説明していいものか迷ったからだ。

「いや、あるんだろうな……いいぜ、行って来いよ。」

「すまない。」

「素直な奴は嫌いじゃないぜ、まあ今度なんかおごらせてもらうがな。」

 口は回るがいい奴のようだ、おごらされるハメになったがまあ、この際仕方ない。

 しかしどうするか、今からトレーラーを取りにいって、修理しても間に合わない。ならばこのまま生身で彼女の元に向かうか?

 だがそれでは確実に彼女を救えない、無駄死にするだけだ…。

「なんか考えてるようだが、お前のトレーラーなら俺様が回収して修理しておいたぜ、村のすぐ横に置いてあるぞ。」

 ああ、セイムお前は俺にとって今、神のごとき存在に思える。拝んだっていい。さっきは五月蝿そうだなんて思ってごめんよ。

「ついでにこれも持ってけ。」

 セイムは俺に向かって箱を投げてきた。

「痛み止めだ、その手で戦うんだったら飲んでおいたほうがいい。ああ、心配するな、眠くなったり手の感覚がなくなるような薬じゃないから鋼機を動かすのに支障を来たす事は無いだろうよ。」

「本当に恩に着る」

 そういうとセイムは笑って…

「んで、一人で大丈夫かい?」

 そう俺に聞いてきた。

 答えは一つしかない。

「余裕だ。」

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