不思議の国の西洞院口 3

 3日後。

「今日もJR西日本をご利用いただき、誠にありがとうございました。次は終点、京都です。」

 関西空港から京都までは約1時間半といったところだろう。驚いたことに、関空―大阪間の距離は大阪―京都間よりも30分ほど遠かった。なぜそんな不便な場所に空港がたっているという事実が関西圏の人間に許されているのだろう。確かに市街地から遠いからこそ24時間稼働させることが可能なのだろうが、それならば空港の向こう岸にあるりんくうタウンとは一体何なんだ。電車の停車駅も増えるし、観光客にとって何のメリットがあるのだろう。というか、一体どんな人間があんないかにも不便そうなところに好き好んで住んでるのだ?

 車窓はすっかり真っ黒に塗りつぶされている。そりゃそうだ、じきに日付が変わろうとしている時間。景色を期待する方がおかしい。畜生、何でこんな夜遅くに僕は京都まで、しかもわざわざ飛行機を経由して。交通費を支給されたとはいえ、よくよく考えれば片道分のチケットしかもらってない。特急とはいえ座りっぱなしはかなり疲れた。とりあえず夜も遅いし、あいつに帰りの切符を請求するのは明日にしようか。とりあえず今宵はどこか適当な宿でも…いや少し待て、そもそもここは世界屈指の観光都市。今から押しかけて空いている宿があるだろうか。あったとしても、今の手持ちで進んで泊まりにいける場所でないことは確か、糞だ。 

 だが京都に来てしまった以上仕方がない。戻るにしても電車も体力もろくに残ってない。そもそもここに来た目的はこの京都駅の調査依頼だ。それをこなさずに帰ってしまうというのは、信用に瑕がつくというものだ。それは職業柄あまり良いものではないし、何より僕自身がおもしろくない。いつも通りさっさと結論を出して、あいつに報告しよう。こんな時間に押しかけても、あいつなら文句は言うまい。彼女はそういう人間だ。

 といういつも通りの長ったらしいモノローグをだらだらと続けているうちに、いよいよ京都駅、30番「はるか」専用ホームに到着した。噂通りでかい駅ビルだ。ただ、そのでかい面に反して、駅は割かし大きいだけでいたって普通の地上駅だった事にはがっかりさせられる。

 とりあえずこの駅からでなくてはならない。さてさて、出口はどこかしら・・・と見渡すと、右に遠く中央改札、そしてもう一つ、向こう側34番ホームの左端に小さくの上り階段。ここはおとなしく中央改札から出るべきだったのだろう。だが行く道や出入り口は、ついつい好奇心で小さく、狭く、人の選ばない方を言ってしまう。生来の悪い癖だ。そして眠気と疲れがのぞかせていたのなら、ここで立ち止まらせる妙法正もうまく機能しない。酔ったような感覚で(実際には酒なんて飲んでないけども)小さいほうの出口、西洞院口へと歩き出した。


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