不思議の国の西洞院口 2

 2か月前の話である。京都へ行った昔の友人が、こんな手紙をよこしてきたのだ。

「お日柄よろしいこの季節、いかがお過ごしだろう。

 京都はとても良い街だ。なにがいいと逐一挙げるとキリがないけども、あえて特筆するなら、風景が最適だろう。桜のトンネル、五山の送り火。紅葉の大学に雪化粧の金閣。過ごしていて飽きることがない。京都市内だったらだいたいバスでどこでも好きなところに行けてしまうのも大きい。というか、京都の市バスは化け物である。100種類以上に上る系統、230円の均一運賃、500円の乗り放題。今までいくつの京都の交通機関が、この日本有数のバスネットワークに苦汁をなめさせられたことだろうかと、思いをはせなくてはならない。そんな市民から絶大なシェアを獲得している市バスでさえ、渋滞による遅延の常態化や地下鉄の延伸、同業者の台頭で経営に影が差しているというのだから、いやはや、京都という街は本当に恐ろしい。

 さてさて、かなり長らく無駄話をしてしまったようだ。私がこんな手紙を送ってきたのは、何も君に京都自慢をいやらしく聞かせるためだけではない。実は、ある都市伝説をについて、君に調査と意見を求めたいところであったのだ。京都の持つ歴史は、量、質、その他すべてにおいて、ほかのどの日本中の都市の追随を許さない。幾億にも上る老若男女、奴婢から貴族たちが等しく生きては、等しく死んでいった。人のいるところ噂が生まれ、怪談として現実を侵食する。それぐらい君も理解しているはずだ。千年の都京都に住まう魑魅魍魎は、そんじょそこらの地方都市とは数も力も文字通り桁違いだ。そして、今も絶えず伝承は生まれ続けている。

 今回君に調査してもらいたい事案についても、その一つ。京都ではごくごく新しい部類に入るが、それでも4,5年前から根強く伝えられている怪奇現象だ。そういうのはお前の仕事じゃないかと君は言うだろう。無論、専門家として私も調査に乗り出したが、余り得たものはなかった。というより、現れてくれなかった。君も知っての通り私は古い頭の人間だから、こういう現代妖怪の類はどうも苦手なのだ。そういったわけで、東京に住まう君なら適任だろうと思い、この手紙を出した所存だ。特に下丘でもないし、君も暇ではないだろう。この手紙も煮るなり焼くなり好きにしてもらって構わない。私ができることは信じるか祈るぐらい、なら前者を選ぼう。

 関空特急「はるか」の最終で京都駅に向かえ。そこに行けばわかるはずだ。

 健闘を祈る。」

 共に、明日に日付指定された関西空港行きの飛行機のチケットと、「はるか」の指定席の特急券が同封されてた。依頼料代わりのつもりか。

 全く、あいつにはかなわない。交通費をダイレクトに出されたら、使わなくてはもったいないじゃないか。直近2,3日の予定をすべて蹴って、僕は京都駅に向かう運びとなった。そこにどんな歓迎が待っているとも知らずに。


 201609290156/1,198 words

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