不思議の国の西洞院口 1
京都駅は噂に聞いた通りの巨大極まりない駅だった。4社7路線が乗り入れ、ホームの数は総じて24個、東西の長さは470mにわたる。流石、大阪駅に次ぐ一日67万人の利用客を誇る千年都市の玄関口なだけのことはある。ただ、巨大さでいえば、阪急阪神JRのターミナルが集中する大阪駅の方が圧倒的に巨大で不可解なはずである。
にもかかわらず、京都駅が大阪駅と同じぐらい巨大と感じるのは、そのスケールの意味がほとんど理解ができないところにあるのだろう。地上16階、地下3階、延床面積238,000m²。初めて訪れた観光客の中に、果たして何人の人間が伊勢丹と土産物屋以外の施設の存在を理解しているであろう。恐らく構内に、日本で数少ないNHKキャラクターショップが存在していることは、普段使用している京都市民ですら把握できているものは1割にも満たないだろう。
東にホテルグランヴィアと京都劇場、西に伊勢丹とビックカメラ。その間をつなぐ全く意味の分からない4000枚の硝子天井。邪神すら中に収めたその巨大空間は、外から見ればまさしく壁だ。一体どんな思考回路が働けば、これを京都駅と主張できるのか。従来の規制である高さ60mび抑えながら圧迫感を回避するためと説明されているが、だからといって何故硝子天井なのか。設計者の精神を疑わざるを得ない。改築時に市民や僧侶たちが総じて猛反発した気持ちがよくわかる。
しかし、これら肥大した施設はすべて烏丸口の駅ビルである。実際の鉄道施設としての構造は特に難解なわけではない。というより、大阪駅と大した違いはない。上通路と下通路、洛内に面した烏丸口と洛外に向いた八丈口。地下通路を通るとなると少し混乱するが、2階大通路から正面改札に出れば、後は京都タワーとバス停が目の前である。大したことはない。自分の降りたホームを正しく把握できれば、普通の駅と何ら変わらない。そういう印象だった。
けれども、この京都駅という建造物は想像以上、いや、理屈以上に理解不能な迷宮であったことを、僕は思い知らされることとなった。そう、ここは京都。遥か昔より神仏妖怪、魑魅魍魎が住まう場所。その玄関口ともいえる場所に、何もないわけがなかった。結局のところ、僕は京都駅に完全敗北したのだ。
そう、完全敗北。いまだに信じられないけれども、僕は朝まで京都駅に遭難したことがある。いや、遭難したというのは生ぬるい。監禁されたというべきだろうか。他の誰によってでもない、京都駅そのものによって。
20169280113/1,025 words
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