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閉戸へいどういです。前の学校ではテニスをやってました。この学校でも、テニスをやろうと思ってます。よろしくお願いします」

 黒板の前、、そう自己紹介を済ませた。

駄良だら双夜そうやだ。まあ、前の学校では特に何もやってなかったけど……。何か面白そうな部活があったら教えてほしい。みんな、よろしくな」

 その隣、左から二番目に立った、少しチャラそうな男がその次に自己紹介。

「え、えっと、その……。知柳ちりゅうかなえです……。あのその、わ、わたしと仲良くしてくれると、うれしいです。あ、ごめんなさい、何でもないです……」

 左から三番目の内気そうな少女が、妙に卑屈な感じで言う。

渓瑠けいるカトルよ。気軽にカトルって呼んでくれると嬉しいわ。みなさん、よろしくお願いしますね」

 更にその隣には、キラキラした感じの女子生徒。

 それからも、転校生たちによる自己紹介大会が繰り広げられる。

 途中でホームルーム終了のチャイムが鳴る。しまいには一時間目にまで食い込むが、担任を含め、特に誰も気にしない。

 そして。

 閉戸へいど駄良だら知柳ちりゅう渓瑠けいる空儀くうぎ聖雨せいう舎波津しゃはつ尾布都おふと縫由ぬいゆう……。聞きなれない名字のオンパレード。

 一、二、三……。

 最早、瞬時に認識できる数を遥かに超えてしまった。僕はそんな大量の転校生たちを一人一人、頭の中で数え上げる。

「ボクは紫兵裏しへいりかえる。何だかみんな、すごく楽しそうに日々を送っているみたいだね。ボクはキミたちが羨ましい。だから転校してきた。こんなボクだけど、仲良くしてくれるかな」

 よく分からない自己紹介を始めた、小柄な少女。海も同年代の女子と比べれば少々小柄だと言えるが、彼女――紫兵裏しへいりは、ともすれば中学生か、下手をすれば小学高学年あたりに見えてしまいそうだった。

 宵闇のような漆黒の瞳。しかしその瞳は宝石のような輝きを放ち、見つめているだけで吸い込まれてしまいそうだ。

 シルクのような髪の毛は、その瞳と同様黒く輝く。前髪は眉毛の高さで水平に切り揃えられ、後ろ髪は床に届きそうなほどの驚異的な長さだ。

 その矮躯と綺麗に整った顔立ちも相まって、高級な日本人形のような印象を受ける。

 僕の数え間違いでなければ、彼女で合計三一人。

 実に三一人もの転校生が、我がクラスに大挙して押し寄せてきた。

 僕を含めれば、この一ヶ月で三二人。

 これは明らかに異常だ。

 また、何かが起こっている。

「うわー、転校生がこんなにたくさん。いやー、そういえば朝の星座占いで、わたし今日の運勢三位だったんだよー。占い当たったねー」

 例によって海は呑気なことを言っている。しかも三位って。

「なあ王子。お前、どの娘がいい? 俺はなー……」

 やはりこちらもこんな感じ。

「じゃあ、転校生のみんなは……。えーっと、どうしようかな。このままじゃ、席足りないわねえ」

 と、担任が困惑の声を上げる。

 そりゃそうだ。

 教室のキャパシティなど、良くてせいぜい四〇人程度だ。そもそも三〇人ちょっといたところに、こうして新たに三一人もやってきたらあっという間に定員オーバーだ。

「あ、先生。大丈夫です。私たち、今日のところは立ってますから」

 そんな担任教師に助け舟を出したのは、一番左の少女。

 ええと、閉戸へいど……とか言ったっけ。

 どうもこちらの人間の名前は覚えにくい。

 今日はそれが三一人も増えてしまった。

「あら、そう? じゃあ、悪いんだけど、そういうことでお願いできるかな」

 そんな異常な提案をあっさりと受け入れる。

 この担任教師もまた、この県で巻き起こる様々な出来事を特にどうとも思っていないのだろう。……といっても、僕もこの場で冴えた解決策を提示できるわけでもない。まあ、当面のところはそうするのが得策だろう。

 ぞろぞろと、教室の後ろへと向かう三一人の転校生たち。

 あっという間に、授業参観のような光景が出来上がった。

 正直、落ち着かない。

 今日はこの空気の中で授業を受けなければならないのか……。

 祝賀ムードに包まれた教室を、どこか諦観しきった気持ちで見渡す。

 誰も彼も、妙にそわそわして落ち着きがない。

 転校生が来る、などというのは、学園生活における一大イベントだ。だから彼らの気持ちが分からないでもないのだが……。それでも僕は、この状況に一抹の不安を覚えないではいられなかった。

 ふと、そんな光景の中に、異質なものを見出した。

「……これは、一体」

 一人だけ――たった一人だけ。

 僕と同じように、今回の出来事に違和感を抱いているらしき少女――。

 プリンセス・華良緋からひヴィラは、顔を顰めながら、ざわつく教室を眺めていた。

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