6
そんな初日が終わって、帰宅。
帰路を共にした海と、家の扉の前で別れる。
「ただいま」
誰か帰っているのだろうか。
父は仕事だろうし、母も今日は色々と買い物があると言っていた。
「あ、お帰り、お兄ちゃん」
「ん、ああ……姫か」
妹は既に帰ってきていたようで、僕の帰宅を笑顔で迎えてくれた。
「学校、どうだった?」
「楽しかったよ。みんなもいい人だったし。お兄ちゃんは?」
「まあ、僕も似たようなものかな」
幸先のよいスタートと言える。
いくつか、妙なこともあったけれど……。
そうだ、そのことについて、一つ確かめたいことがあったのだ。
「なあ、姫。……今日、学校で何か気になることとかなかったか? おかしなことというか、ありえないことというか……。どんなことでもいいんだ、どんな小さなことでもいい。何か引っかかることがあったら教えて欲しい」
「ど、どうしたの、お兄ちゃん」
真剣な僕の眼差しに、妹が若干困惑しているのが分かる。
それでも、どうしてもこれだけは確かめておきたかった。
「例えば、そうだな。昼ご飯、とか」
確か、妹の通う中等部には給食がなく、多くの生徒は僕たち高等部と同じように購買で昼食を確保している、とのことだった。だからきっと、彼女もまた、僕と同様の体験をしたはずである。
「え、お昼ご飯? ……そうだなあ。あ、そういえばあたし今日、ドラゴンのお肉って初めて食べたよ。東京じゃ食べられないもんね。ちょっと癖が強くて、お腹が負けそうになっちゃったけど……。でも、おいしかったよ。お兄ちゃんはどんなの食べたの?」
「僕も食べたよ……ドラゴンの肉」
「へえ、そっか、お兄ちゃんも食べたんだ。おいしいよね、あれ。牛肉とか豚肉にはない、あの独特の感じがもう癖になりそうだよ」
嬉々として語る妹の表情には、そのことに対する疑問など微塵も見受けられない。
結局、この異常な環境を異常と認識しているのは僕一人だということだ。
地元の人間は元より、東京生まれ東京育ちである妹も――恐らくは両親も、この環境を普通のこととして受け入れている。何か思うところがあったとしても、せいぜい東京にはない珍しいもの、程度の認識だ。
やはり、おかしいのは――僕一人なのだろうか。
世界と自分との距離を強烈に印象付けられた、そんな転入初日だった。
この後少しして、用事を済ませてから近所のスーパーで食材の買い物をしてきた母が、特売品があったとか言いながらにこやかに帰ってきた。その手に提げられたエコバッグにはドラゴン肉を初めとしたファンタジックな食材がこれでもかとばかりに詰め込まれていて――僕の胃もたれはもうしばらく続くことになった。
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