11.有能

 板二枚分を隔てたとてつもなく遠くにいる天使を殴りたい衝動に駆られるも何とか耐えた俺はとっととその日時を聞き出そうとする。

「で? 今日は何月の何日なのよ奥さん」

「言葉使いが変じゃないですかね? まあ良いです。今日は」

 そうしてリサエルは日時を言う。

「あー、二〇一六年十二月は十七日。土曜日です」

 何故か歌舞伎でもやるかのような変な調子でリサエルが言った。

「あ、ちなみに今は七時半頃ですよ」

 やっぱり一時間と三十分くらい寝坊していたらしい。

「朝ご飯どうするべ……」

 朝は俺の仕事である。あと夜も。あと昼も。

「……結局全部作ってるな俺」

「そのうちお邪魔させて頂きますね」

 嫌だよ来るなよと心の底から願う。

 てかうちのひとみはどうなる。


 _____



 結局簡単にサンドイッチで済ませることにして、卵焼きサンドとハムきゅうりサンドを作った。きゅうりと卵は正義である。

 寒さに震えながらネロの部屋へと向かう。

 ちなみに料理スキルは瞳にも一応仕込んである。但しネロがどうかは知らない。恐らくダメ。

 着いたので躊躇なく妹の部屋の扉を開ける。案の定ネロはベッドの中でぐっすりだった。

「おーい、起きろー」

 掛け布団をはがし、携帯のアラームを最大にして耳元で(は危ないので少し離れて)鳴らす。

「うにゃ……もすこしアイス食べりゅ……」

 変な寝言が返ってきた。うちのネロはすっかりアイスに心を奪われた様子。

 コーヒーに入れてビターテイストにでもしてやろうか。

「うぅ……苦いのらめぇ……」

「いい加減に起きなさい。てか心を読むな。ほんとにコーヒーに入れるぞ」

「ダメ!」

 ネロがガバッと起き上がる。

「……る? おはよぉ」

「お、おはよう」

 動きが寝起きのそれではないのでハイスペックではないかと疑ってしまう。嬉しいことではあるのだけれど。

 二度寝しないうちにベッドから連れ出してご飯を食べさせた。

「タカヤは有能」

 ボソッと言ったその言葉で俺の心は少し踊るのだった。


 _____



 ネロに事情と一週間丸々遊べることを伝えたら、ネロはそれはいいと手を叩いた。

 一応妹ひとみの体である。あまり変なことをしないようにと釘を刺すと少ししょんぼりしたがすぐに気を取り直し、それじゃあ遊ぼうという辺り可愛いものであった。ニヤリ……とはしていない。

「しかし、何しよう」

 ぐぬぬと悩むネロ。そこで俺はある提案をした。

「クリスマス、全力で楽しみましょうや」

 ……本番ではないけれど。

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