クズと金③

「一つ聞いても良いですか、満日さん」

「いいですけど、今後一切“満日”って名前を呼ばないでくださいねゲス君。私を含めて全国の満日さんの名前がけがれますから」

「営業用スマイル」という名の作り笑いを浮かべた満日は端から見れば美少女なのだろうが、目の前で見ると怖いぞ。

この「何ですか文句ありますか?」みたいな圧力をかけてくる笑顔スマイルは。

「へいへい、満日って呼ばなきゃいいんだろ、転校生さん」

「その通り。物わかりが良いですね悪人☆」

転校生さんは物わかりが悪いな。

悪人じゃねーんですよ、俺は。

と、そんなことはどうでもいい。

問題は───。

俺の前に広げられた、45円が置かれている風呂敷だ。

45円と共に綿が入っている。

多分、俺はそれで金がたんまり入っていると錯覚させられたんだろう。

俺は45円から視線を外し、転校生の方を見る。

「何ですか?悪人さん。そんな汚らわしくて光の入っていない腐った視線を私に向けないでくれますか?私のnicebodyが傷付いちゃうじゃないですかぁ」

「俺のめは汚らわしくもないし腐ってもいない。しかも、ちゃんと光輝いている。むしろ輝きすぎて困るくらいだ」

俺は反射的にそう言うと、転校生さんは満足気に口角をあげて笑う。

「で、本題に入ろうか、転校生さん。俺の言いたいこと、分かるだろ?」

俺は45円を見下ろしながらそう言った。

「えー、なんのことですかぁ?わかりませんよー(笑)」

転校生はあくまでも知らないと、しらける。

「はぁ………」

俺ははぁ、と溜め息を吐いた。

そして転校生はわざとらしく、あーっと叫んだ。

「もしかして、この金額に文句があるとか?」

俺は反射的に頷く。

「嫌だなぁ。こんな縁起の良い金額に、ケチ付けないでくださいよ。この金額が、何を表しているか。無能で存在価値が極めて低い悪人さんでも、流石にこれくらいは分かりますよねーっ?」

こいつ………。

俺が全く分かっていないことを空気的に察しているんだろう。

なのに態々わざわざこんなことを言っている。

俺は、何も言わないのはさすがにないと思ったので、一応試しに言ってみる。

「もしかして、4六時中ゴ《5》ロゴロしたい、って意味が込められているんじゃないのか?」

俺が言うと、転校生はお腹を抱えて笑いだした。

「あ、悪人さん(笑)。まさか、まっ、まさか、そんな答えを出すだなんて(笑)。まったく、悪人さんは私の予想を軽く越えてくれますねぇ笑笑。あ、勿論、良い意味で、ですよ。良い意味で」

こいつまじてむかつく。

男だったら一発殴っているところだ。

でも、母さんに「女の子には優しくしなさい」って習ったからな。

絶対に殴っちゃいけない。

俺は、母親の言うことは聞く、良い息子なのだ。

「で」

俺は、変わらず笑い続ける転校生にも構わず、呆れた声で切り出す。

「この額は、一体どうしてくれるんだ?」

俺が言うと、さすがの転校生も笑いを止め、俺の方を真っ直ぐと見つめてきた。

そして言う。

「いやぁ、これには深い物語があるのですよ~」

そして。


「今から話しましょうか。その、長く深い物語というやつを」


転校生・満日光は、口角をあげ不適な笑みを浮かべてそう言った。

そして語り始める。

転校生・満日の物語というやつを。

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