第2話

 村の中のヴィランを倒したエクス達は、村の中で想区の情報を探す事にした。

 しかしそれに思わぬ壁が立ちふさがる。

「ダメね。この家もみんな寝てるみたいだわ」

 ドアをノックしていた手をおろし、レイナは肩をすくめた。

「こっちもだ。シェインの言ってたタイムなんちゃらの暴走っていうのも、あながち間違ってなかったみたいだな」

「タイムマシンですよ、タオ兄」

 夜になってかなり長い時間が経っているはずではあるが、村の住人達はみんな眠っているようでノックをしても一向に出てくる気配が無いのだ。

「勝手に上がり込む訳にもいなないし、どうしようか?」

 村には外にランプを出している酒場もあったが、客はおろかそこの主人も眠ってしまっていた。

「宿もない村みたいですし、これは野宿しかないですかね」

 こういった小さな村では酒場が宿屋を兼ねているものなのだが、部屋の用意が出来ていない以上主人に事情を話して寝泊まりさせてもらう訳にもいかない。

「そんなぁ、せっかく村を見つけたのに……」

 レイナはその場にへたり込んでしまった。

「仕方ないだろ、ほら行くぞお嬢」

「さっ、レイナも立って」

 レイナの手を引いてエクスは先に歩き出していたタオとシェインを追った。

 村を出た一行が向かっているのはさっきのヴィラン達が去っていった方角である。

 この村では何もわからなかったので、今のところ手がかりと言える物はあの人影しかない。

「こっちの方が道はしっかりしてるな。俺たちが出たのは田舎の方がったらしい」

 村のこちら側の道は、さきほど歩いてきた道よりも踏み固められていて轍も深くしっかりと残っている。

「良かったですね姉御、この道の先が大きな街だったらベッドで寝られるかも知れませんよ」

「そうね」

 返事をするレイナの足取りは重い。

 村で休めると思っていたところから歩き出してしまったので、余計に疲れてしまったのだろう。

 エクスも村のすぐ近くで休むと思っていたので、どこまで歩くつもりなのか不安になっていた。

(まさか次の村に着くまで歩き続けるつもりじゃないよね……)

 タオとシェインはかなり体力があるので、無いと言い切れないのが怖いところだ。

 自分が休憩をしたいと言えばレイナも反対しないだろうし、タオとシェインも足を止めてくれるはずだ。

「あのさ……」

 そう思ってエクスが口を開いた瞬間、別の声が聞こえてきた。

「貴様らは何者だ? かの者に手下が居るなどと私の運命の書には載っていないが」

 男の声だ。

「こっちだ。かなり近いぞ」

 全員で声の方向に駆けていく。

 少し先は緩やかな下り坂になっていたらしく、下った所で男がヴィランの集団と対峙していた。

 月の光の下でもわかるくらい日に焼けた浅黒い肌をしていて、背が高く鍛えているのがよく分かるガッシリとした壮年の大男だ。

 しかし仕立ての良さそうな服を自然に着こなしていて、戦いや肉体労働をしている様には見えない不思議な印象の人物である。

「クルル、クルゥ~」

 笛の音を思わせる独特のかん高い鳴き声。

 小人のような見た目のブギーヴィランである。

「………………」

 村で戦ったゴーストヴィランも後ろに控えていた。

「クルゥ、クルッ……クルルゥ~」

 向かい合う男を威嚇するようにブギーヴィランが低くうなる。

「言葉を解さぬ怪物か。専門外ではあるが浄化してやろう」

 空気が剣呑になっていくのを察し、男が杖を構える。

「クルルアァァ!」

 同時にヴィラン達が男に飛びかかった。

「僕たちも一緒に戦おう」

 エクス達は急いでヒーローの魂と接続する。

 今回エクスが選んだのは魔法による遠距離攻撃ができるアランだ。

 出遅れてしまった分を魔法攻撃で取り戻すため、変身した直後から魔法を撃ちまくる。

「こっちは背中を取ってるんだ一気にいくぜ!」

 同じ考えだったようで、タオも本来は栞の裏面である魔法使いのジル・ド・レに直接変身している。

「お嬢、私たちで弾幕を張りますから前に行ってください」

 シェインも戦い慣れたラーラで魔法を撃ちながらレイナに声をかける。

「わかったわ! あいつ等にレディのたしなみ、教えてあげるんだから」

 唯一遠距離で魔法攻撃ができないレイナは片手に剣を携えたアリスに姿を変え、ヴィランの中に突っ込んで行く。

「はあぁっ! たぁっ! ……うっ、しまった」

 エクス達三人が援護攻撃を行っているとはいえ、後衛を務める事が多い両手杖の魔法使いが一人で矢面に立っているため、男は苦戦を強いられていた。

「クルルゥ!」

 今もブギーヴィランのツメを受け止めたところで、ゴーストヴィランの魔法を避けきれずにモロに喰らってしまった。

「ぐふっ」

 大きな衝撃を受けて男が体勢を崩す。

「クルゥ……クルッ」

 その隙を見逃さず、ブギーヴィランはぐっと頭を沈め突撃の体勢を取った。

「やあぁっ!」

 間一髪のところでレイナが駆けつけ、背後からブギーヴィランを強襲する。

 その勢いのまま塵となったヴィランの煙を抜け、回り込んでいた剣のゴーストヴィランを一閃した。

「………………」

 吹き飛ばされたゴーストヴィランは飛んできた魔法攻撃で塵と化す。

「大丈夫ですか?」

「ああ、助けられたな」

 魔法使いの男はすぐに体勢を立て直し攻撃を放つ。

 その体は大きな傷こそ無いものの、あちこちにダメージを負っていた。

「少し待ってください」

 そう言ってレイナは接続するヒーローを切り替える。

 体を光に包まれ、現れたのは頭から生えた耳が特徴的ヒーロー、時計ウサギである。

「なっ!?」

 突然の事に男は攻撃も忘れて目を見開いている。

「えいっ!」

 レイナは片手に持った杖を上に掲げて回復魔法を発動させる。

「おぉ、傷が……礼を言うぞ、不思議な術の少女よ」

「今はそんなの良いから、こいつ等を倒す事に集中しましょう」

 必殺技で足が止まっていた間に、レイナと男はヴィラン達に取り囲こまれていた。

 しかし男はこの状況で不敵に笑ってみせる。

「では、落ち着いたら改めて礼を言わせてもらうとしよう」

 そう言って男は腕を前に伸ばし、持っていた杖を地面へ突き立てる。

「朽ち果てよ!」

 声と同時に杖の先から光が立ち登り、白く煌めく杭となってヴィラン達に降り注ぐ。

「ク、クルルゥ……!?」

 何が起こったのか理解する間も無いといった様子で、この一帯にいたヴィラン達は一瞬でかき消えてしまった。

「す、すごい……」

 男の必殺技のあまりの凄さに、ヴィランの気配が無くなってもレイナは接続を解くのも忘れて呟いていた。

「レイナ?、大丈夫だった?」

 エクスの声で我に返ったレイナは、栞を引き抜いて自分の姿に戻った。

「敵が減ってきたところでジャックに変わって駆けつけて来たんだけど、結局間に合わなかったね」

 エクスも目の前で見せられた必殺技の威力に驚きを隠せない様子だ。

「まさか俺が一度の戦いで二度も出遅れるとは、正直驚いたぜ」

「あの程度の敵ならシェイン達の力は必要無かったですかね」

 最後まで魔法を打ち続けていたタオとシェインも無事合流する。

「君達の助力が有ってこそだよ。改めて礼を言わせてもらいたい」

 まず一礼して男は、エクス達一人一人と握手を交わした。

「ふむ、君たちの中に吸血鬼はいないようだな」

 握手をした手の様子を確認しながら男がそう言った。

「俺たちに何かしたのか?」

 タオが剣呑な雰囲気で男に一歩詰め寄る。

 それはさり気なくシェインを庇うような位置取りになっていた。

 普段あまり気にする事はないが、シェインは鬼族――人とは異なる存在である。

 もし男のした事がそれを判別するもので、人外の者を無条件に敵とみなしていた場合戦いになる事もあり得る。

「済まない。恩人に取るべき態度ではなかった」

 男は深々と頭を下げる。

「吸血鬼に触れられた場所は痺れを覚える。それを確認したのだ。勝手に試すような真似をしてしまって本当に申し訳ない」

 そのままの姿勢でどういう意味の行為だったか説明し、改めて謝罪の言葉を述べる。

「そんなにかしこまらなくて良いですよ。こっちも気にしてませんから」

 シェインはタオの陰から出るように一歩前へ出て男の謝罪を受け入れる。

「それに、血を吸わない鬼はわからないみだいですしね」

 それからポツリと仲間にしか聞こえないようにつぶやく。

 シェイン本人がそう言った事もあり、タオも大人しく一歩引いた。

 それからようやく男は顔を上げる。

「さっきは俺も悪かったな。俺たちはタオ・ファミリーだ。よろしくな」

 タオは改めて男に握手を求める。

 男はその手を取って自己紹介を始める。

「我が名はヴォルデンベルグ。先祖からの因縁により吸血鬼カーミラを追う者だ」

「吸血鬼、カーミラ……」

 ヴォルデンベルグが口にした名前、それはシェインが導きの栞で表のラーラと一緒に裏面でよく使っているヒーローの名前だった。

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