その3-8

「引力の方はいいとして、問題は磁力だ。もう一回説明いいか。」

「お、おぉ。磁石の両端から二種類のベリタスの波が出ていて、N極とS極で反対…の波?」

「反対の波?こう、波の高いところがこう反対になっているという事か?」

 シホ先生と同じように二つの波を作るヨシオ…お前は先生の話を聞いていたのか?いや、もしかしてベリタスを通じてシホ先生とつながっている可能性も否定できない。まあ、それはないか。

「あ、そう。それ。で、それが同じ種類の波だと大きくなって…えっと、広がろうとする力…あ~、斥力だったけか。」

「そう、斥力。」

「その斥力が大きくなって反発し合う。で違う種類の波だとお互いに打ち消し合って波がなくなって斥力がなくなって、引っ張る力が強くなる。…これでいかがでしょう。」

「ウン、マコトにしては上出来だ。なんとなくだが分かったぞ。」

 なんか馬鹿にされた気がするが…。

「反対の波、これは逆相って言うんだが、実は音楽業界…っつうか音響の世界では基本中の基本の話だ。騒音を消すのに同じ強さで反対の波をぶつけると、不思議な事に騒音が小さくなる。この技術はすでに実用化されているんだ。」

 ヨシオ何でも知っているな。

「フム、逆相か…なるほどな。考えたこともなかったが、確かに説明はできる。ただ、それは磁石同士の話だろ。磁石と鉄はどうなる。」

 う~ん、どうだったかな~。

「あ~、ちょい待ち、今思い出す。…この宇宙空間の物質だから…あ~、宇宙空間と同じように?小さく?なりたい?から?」

 ダメだ。そこから先どうだったっけ。

「思い出せないか?」

「うん、わりぃ。」

「いや、文系のお前にしてはよく思い出したと思う。」

 いやあ、ほんと申し訳ないよ、ヨシオさん。

「今までの流れと今の話から推測すると多分こうだ。鉄は宇宙空間の中の物質だから、宇宙空間がそうであるように、小さくなろうとしている…。」

 おお~!その通りですよ、ヨシオさん。まるで聞いていたかのよう。

「で…磁石から出ている波とは反対の波を出してベリタスの波を打ち消そうとする。その結果斥力がゼロになり、鉄が磁石にくっつく。こういう事じゃないのか?」

「そう、その通り!いやあ、びっくりしましたよ。ヨシオさ~ん。」

 オイオイ、あまりビックリし過ぎて拍手しちまった。

「そうか、うん。ただ、一つ問題がある。」

 いやあ、もう問題なんて無いっすよ~。

「ベリタスの波を消すことによっておそらくその空間にはゆがみができているはず。そうすると、鉄なんかの磁石にくっつきやすい物以外の物がその場にあったとしたら、そのゆがみに引っ張られるはずなんだが。そうはならない。」

 はっは~ん。

「オッホン。」

 そうですかそうですか。ヨシオさんにもわかりませんか。

「これはこういう事なんですよ~。」

「なんだよ、いきなり。」

「空間がすべての物質に平等だとは限らないですよ、ヨシオ君。」

 とびっきりの笑顔をしてやった。

 ヨシオのヤツ固まってしまった。ヤベェ、言い過ぎたか。瞬きすらしない。

「そう、そうだよな。」

 納得できるのか?

「そうだよ。人間に聞こえなくても、他の生き物に聞こえる音がある。人間に見えなくても他の生き物に見える色がある。そうだよ。みんなに平等じゃないんだ。当たり前なんだよ。」

 ヨシオが吠え出した。何をそんなに興奮しているんだ。吠えるほどすごいことなのか?

「マコト!」

 ひとしきり興奮した後、ヨシオは僕の肩を揺さぶった。

「そのとんでもなくぶっ飛んだ説、一体どこの誰が言ってるんだ?」

 どうしよう。ヨガの先生が言っていたなんて信じてもらえるはずがない。

「イヤ、オレの知り合いがこういう話を聞いたことがあるって、オレに話したんだ。でも、そんなにすごい話だなんて分からなくて。」

「そうか。しかしこの説が本当だとしたら、大変なことになるな。マコト、この説はお前が思っているより…。」

 ヨシオは何か独り言を言っているが僕の耳には入らなかった。僕はきっととんでもない人にヨガを習っているのに違いない。

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