その3-7

「なんだっけかな~」

 一所懸命に記憶を辿った。

「えっとな、宇宙空間は縮まろうとしていて、ベリタスは逆に広がろうとしているらしい。で、物があるところのベリタスの濃度が薄くて、広がる力が小さいから重力が大きいんだって言ってた。」

 ヨシオは穴が開いた僕の顔をもっと深く穴が開くくらい見ている。

「なんじゃそりゃ。」

「それと、重力と磁力も同じだって。」

「ちょっと待て、それは違うだろう。」

「磁石の両端から反対のベリタスの波が出ていて、それが同じ波だと波が大きくなって離れる力が大きくなる。違う波だと波同士で打ち消し合って波の大きさがゼロになって、引っ張る力が大きくなる。これが磁力の正体…って言ってた。」

「ちょっと待て…本当にちょっと待ってくれ。」

 ヨシオは僕の肩に手を置いた。

「お前それがどんなことか分かっているのか。」

「引力と磁力が同じってこと。」

「いや、そうじゃなくて。どんなに大変なことを言ったか分かっているのか、という事だ。」

 そんなに大変なこと言ったのか?

「オレも詳しい事は分からんが、引力も磁力も実のところあまりよく分かっていないらしい。っつうか、正体が分かっていないんだ。」

「……。」

「考えてもみろ、あんな小さい磁石でも離すのに力が要ったり、くっつけるのにも力が要るだろ。おかしいと思わんか。」

 考えたこともなかった。

「そんな結構な力なのに、あまり分かっていないんだぞ。」

 そう言われればそうだ。小学校でもどれとどれでくっつき、どれとどれで離れる、砂鉄がくっつくみたいなことはしたが、中学、高校もなんでそうなるかは教えてくれなかった気がする。

「それがベリタスのせいだなんて、おまけに磁力と重力が一緒だなんて、トンデモ説だぞ。」

 そうか?そうなのか?全然知らなかった。って言うか…。

「まあいい、取り敢えずもう一回説明してくれ。」

「あ、さっきも言った通り宇宙空間は縮まろうとしていて、ベリタスは逆に広がろうとしているらしいんだ。で、物があるところはベリタスが薄くて、広がる力が小さくなるから引力が働くということ。で、磁力…。」

「いや、ちょっと待て。ひとまず引力から考えよう。この宇宙空間は縮まろうとしていて、ベリタスは広がろうとしている。…もしかしてベリタスが宇宙空間を広げようとしているという事か?」

「そうそう、そういう事。」

 ヨシオは何度も頷く。

「つまりベリタスが斥力の正体だという事か。」

 あ、斥力。

「斥力の正体はベリタス。そして物がある所…物体のある所はベリタスの濃度が薄くなる。薄くなるから引力が働く…。ひょっとして、物体が重いほどベリタス濃度は薄くなるんじゃないのか?」

「そうだった。」

 よく分かったな。

「ふ~む。」

 ヨシオは深く息をして、腕を組み目を閉じて頭を後ろにそらして上を見たまま動かなくなってしまた。おい、気分でも悪いのか。

「なんつうか、一応説明はつく。」

 オオ、生きていた。

「辻褄は合う。」

 何に対して合うんだ?

「まず、宇宙は引力によって縮まろうとしているが、ベリタスの斥力によってこの宇宙は広がり続けている。物体があることでベリタスが薄くなり、もともとの宇宙の引力の強さに近づく。まあ、元の引力の強さは分からんが。」

 ヨシオのやつ、何を確かめているんだ。全然分からん。

「ベリタスが薄くなることによって、ベリタス空間を通る光の情報を伝える速度は…おそらく遅くなる。光の速度が遅くなるということは、時間の進みが…遅くなる?……そう、きっと遅くなる。」

 光が遅くなると時間が遅くなる?

「もしもその空間からベリタスがなくなったら。」

 …………?

「引力マックス……。」

 マックス?なんだ?ニヤリと笑いやがって。

「ブラックホールのでき上がりだ。」

 ブラックホール?

「あの有名な?」

「そうだ、レアアイテムのブラックホールだ。マニア垂涎もんだぜ。」

 いや、グッズじゃないから。

「おそらくだが、ベリタスがこの宇宙空間を支えている。支えながら広がり続けている…モデルだと思う。」

「モデル?」

 パリコレか?

「そう、モデルだ。」

 東京コレクションか~。スレンダー美女のオンパレードだな。

「……う~ん。気のせいかも知れんが、お前は多分モデル違いをしていると思う。」

 あ、ヤッパ違ったか。

「百三十何億年前にビッグバンが起こって宇宙がガーッと広がって今に至るというのが今の宇宙の標準モデルだ。」

 あ、そっちね。

「細かい部分は置いといて、多くの科学者はそういう前提で研究をしているが、他のモデルもある。」

「ビッグバン以外に?」

「そうだ。例えば定常宇宙モデルと言うのがある。」

「ていじょう宇宙モデル?」

「チョー簡単に言うとだな、宇宙全体で考えると、宇宙の姿は過去から未来永劫変わらないとするモデルだ。」

「変わらないのか?」

「宇宙全体で考えた場合でだぞ。部分部分で見れば星ができたり消滅したりはするが、全体的には変わらないということだな。」

 へ~。感心してしまったな。

「他にもパラレル宇宙だったり、人間がいなかったら宇宙が無いとかわけわからんのもある。」

 人間がいなかったら宇宙が無いって…。どんだけ人間好きなんだよ。

「まあ、このベリタスもそういうモデルの一つだってぇ事だ。」

 ふ~ん。ベリタス宇宙モデルか。

「まあこのベリタス説はさっきも言ったがベリタスが宇宙空間を支えて…っつうか、おそらくビッグバンの原因もベリタスで、今も宇宙空間を膨張させている。」

 ヨシオすごいな。もうそこに行きついたのか。

「イメージとしては、ベリタスの上に宇宙空間が乗っかってる…例えば…そう、ウォーターベッドというベリタスの上に宇宙というシーツが敷かれた感じ。シーツの上に物が乗っかるとその部分が沈む。その下の水が少なくなる。すると…宇宙空間はゆがむ。ウン。」

 ……!

「すごーく重くなってベッドが支えきれなくなった時その部分に穴が開く。これがブラックホールだ。普通は水が出ちゃうんだが、ここは宇宙空間。宇宙空間の穴ブラックホールはベリタスへとつながる。そして全ての物質はベリタスへと行く……。ひょっとしてだが。」

 ……?

「全ての物質の素はベリタスから来ているんじゃないのか?」

 ……僕その事言っていないのに!

「なんで分かった?」

「その方が説明がつく。ブラックホール通って全ての物質がベリタスに行くということは、逆にベリタスから全ての物質が作られているんじゃないかと考えるのは当然だ。」

 いや、それを思いつくのはお前だけだと思うぞ。ヨシオ。

 あっ、あの時先生は……、


『ベリタスもこの世界に入ることがあります。』

『ブラックホール、とかからですか。』

『それは逆です。』


 これの事だったのか…。

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