その3-5

「ふ~む。マコトには分かり難いか。」

「……そうだな。申し訳ないが。」

「いや、俺の説明が悪い。……そうだな。」

ヨシオ熟考している。本当に申し訳ないと思う。

「こう考えてみろ。マコトにはマコトのベリタス地図がある。」

「はぁ?」

「で、等速直線運動をしている限りはその地図の上でマコトは動かない。」

「動か…ないのか?」

ヨシオ再び固まる。

「いや、今のはダメだ。忘れてくれ。あ~、こうしよう。お前が等速直線運動をしている限り、その地図はお前にずーっと付いてくる。」

「どういうこと?」

「この地面が宇宙空間、この新聞がベリタス空間。」

あ、お馬さん新聞。

「ここにお前の指置け。」

四つ折されている新聞の中央に人差し指を置く。

「これはお前。本当は宇宙空間である地面に置くのが本当なんだが、ベリタス空間との関係を説明したいからこっちのベリタス空間に置く。」

「おお。」

「取り敢えず、俺の方へ指動かして見ろ。あ、同じ速さでだぞ。」

指動かす。新聞も一緒にヨシオの方へ動く。僕の指は新聞の中央から動いていない。

「これが、お前とベリタス空間の関係だ。宇宙空間である地面に対してお前は…。」

「動いている。」

「そうだ。だが、お前が等速直線運動していると、ベリタス空間はお前についていく。まるでお前がベリタス空間では動いていないかのように……ここまではいいか?」

「ウン。」

先生と生徒だな。

「俺のこの指はベリタス空間を通る光の波な。よし、次にこの石だ。」

ヨシオは地面に石を置く。

「これは光源。宇宙空間にあるということにしている。」

そしてヨシオは新聞の向こう側、つまりヨシオ側の端に指を置いた。

「この光源のところに光である俺のこの指がきたらお前の方へ光を照らす。つまり、この石が宇宙空間での光源で、今俺の指がある場所がベリタス空間での光源場所でもある。今度はお前の方に指を置け。新聞の端だ。」

丁度ヨシオの指が置かれた新聞の反対側の端に指を置いた。

「いいか、さっきと同じように動かせよ。」

ヨシオの方へ指を動かす。それに合わせてヨシオは新聞を動かす。ヨシオの指が石の真上に来たところでヨシオの指が僕の方へ動いてきた。そして僕の指にくっついた。

「分かったか?」

「あ~……。」

「もう一回やろうか。」

さっきと同じようにヨシオの方へ指を動かす。それに合わせてヨシオは新聞を動かす。ヨシオの指が石の真上に来たところでヨシオの指が僕の方へ動いてきた。

「お前の方へ光が向かっている。で、宇宙空間ではお前は光源の方へ……。」

「近づいている?」

「そうだ。だけど、ベリタス空間上では光源の方へは……。」

「……近付いていない!」

「そう。光はベリタス空間上では最短距離を通っている。」

……一目瞭然だ。

「お前は光源の方へ近付いているから少しでも早く光が届きそうだが、残念ながら光の情報はベリタス空間を通っている。この新聞の俺の指のようにな。」

「そ…そうだな。」

「逆にお前が光源から遠ざかっても…今度は反対に…今度は真ん中あたりに置け。」

新聞の中央に指を置く。

「今度はお前の方へ指動かせ。」

さっきとは反対に僕の方へ指を動かす。それに合わせてヨシオは新聞を動かす。ヨシオの指が石の真上に来たところでヨシオの指が僕の方へ動いてくる。

「こんな風に光はベリタス空間をさっきと同じ速さで進み同じようにお前に届く。」

「確かに。」

「つまり、この宇宙空間では遠回りしたり、飛び越えたり光速度より早くなったように観測されたとしても、ベリタス空間では一番の最短距離を通っている、ベリタス空間ではそれが一番都合が良いというのはそういうことだ。」

そういうことか。

「今のはマコトの地図だが、同じように俺には俺のベリタス地図があり、百人いたら百通りのベリタス地図がある。おそらくだが、この宇宙の生命体の数だけのベリタス地図があるんだろうと思う。」

多過ぎじゃね?

「説明しやすいから地図って言ったがベリタス空間では、もっと単純なものなのかも知れんがな。地図…地図か。どうも面白くないな。」

なんだ?新聞をじっと見て。

「……そう言えば俺、さっき『動いていないかのように』って説明したよな。」

「そう…だったかな?」

そんなの覚えているわけないじゃん。

「いや、そう言ったと思う。う~ん、そうだな。こういうふうに考えるといいかも知れん。いいか、ベリタス空間は…全ての物体をベリタス空間の中心にあるかのように振る舞っている。」

「はい?」

「一回じゃあわからんだろ?あのな、この宇宙の中心はどこだと思う?」

「え?中心?」

「いきなり宇宙は難しいか。じゃあ、この地球の中心…地表面だぞ。この地球の中心はどこだと思う?」

地球の表面の中心?そんなのあるわけないじゃん、っつうか、決められるわけないじゃん。

「決まらない…。」

「そうだ。決められない。同じように、宇宙の中心も決められない。逆に言うと、全ての物が宇宙の中心であるとも考えられる。」

「全ての物が?」

「そう、マコトもこの宇宙の中心だし、太陽もこの宇宙の中心。つまり、ベリタスはこの宇宙空間の全ての物質を平等に扱っているのだという事だ。物体が動いても、ベリタス空間上ではその物体がまるで動いていないかのように光が進むというのはそういう事なのだと思う。」

う~む。分かるには分かったが、ヨシオは今ものすごいことを話しているんじゃないか?

「取り敢えず、ベリタスについてまとめよう。一。」

いち?

「ベリタス空間は全ての物質が宇宙空間の中心にあるかのように振る舞う。

二、光が発せられたらまず、宇宙空間ではなくベリタス空間を秒速三十万キロで波として伝わり波が物体に当たると光としての実体が現れる。

どうだ。」

「お、お~。」

なんか格好いいな。

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