その3-4

「まあ、光った瞬間と観測者…あ~、対象物としようか。その瞬間の対象物の位置が大事だという事だな。」

 そこは分かってるんですけど。

「じゃあ、じゃあ、このライトがロケットに当たったらロケットの表面は光るだろ。それはオレにはどう見えているんだ。」

「…ん~、二通り考えられる。一つ目は光った表面の情報がお前に届かない。つまりロケットの表面は光らない。二つ目は、ライトが当たってないように見えるのに光る。」

「なんじゃそりゃ。」

「いや、そこからはオレにもわからん。何しろ初めて聞く説だからな。しかし、おそらくは後者だろう。」

 どう理解していいのか。言っていることは分かるんだが。

「そうだな、このベリタス説では、何か出来事、あ~、現象って言おうか。何かの現象は瞬時にしてベリタス全部に伝わる。」

「なんで?」

 あ、そう言えば、先生そう言ってたっけ。

「あ?あ、そうか。わりわり。『その瞬間の空間』のことを地図にするってことはベリタス全体に伝わってないと無理だからな。分かったか?」

「分かった。」

 っつうか、先生から聞いてたから…、悪いな、ヨシオ。

「で、その現象が起きた瞬間、宇宙空間のどの位置にいたかで伝わるまでの時間が決まる、という事だな。」

「もっと分かりやすく…。」

 ヨシオはしゃがみ込むと子供用の箸ぐらいの長さの枝を拾い、地面に向かって。

「いいかマコト。これが光源…ライトな。」

 と懐中電灯のような形を地面に描いた。

「でこの石がマコト。このライトがマコトに向かって光ると光が届く。で、マコトがこうライトの前を横切るように動いてて、ライトの真正面に来た時にライトが光っても、光は通り過ぎたマコトを追いかけていくようにマコトを照らす。それは、光がマコトに届いた瞬間ではなくて光った瞬間にライトがマコトの方を向いているから。ライトが光った瞬間のライトとマコトの位置関係で何秒後に届くのかが決まるという事だ。光った後にマコトがどこにいるかは関係ない。」

 ヤッパまだ分かってなかった。

「宅配ピザで考えてみようか。」

 宅配ピザ?

「ピザが光、でピザ屋が光源。お前は六時間後に届けてくれとオーダーした。」

 ウン、した覚えはないが。

「で、普通に六時間後に自宅に配達される。」

 まあそうなるか。

「ところがお前は何故か中国に行ってしまった。」

「イヤ、中国には行きたくないな。」

「なんじゃそりゃ。物の例えだよ。まあいい。中国じゃなくてインドにしとこう。」

 まあ、それなら。

「まあ、それでも普通はお前のいない自宅に配達される。ところがだ、ベリタス説だと、対象は自宅ではなくてオーダーを出したお前。つまり、どう考えても六時間じゃ届かないインドにいるお前の所にきっちりと届く。」

 ホ~、律義なピザ屋だな。

「逆にお前がピザ屋に気を使ってピザ屋に取りに行ってもやっぱり六時間後にしかお前には届かない。」

 律儀過ぎだろ。

「う~ん、なんとなく分かったような気はするんだけど、例えば俺がライトに近づいていたとして、ライトから九十万キロのところで光って、三十万キロ進んだところで届いたとする。これでも光がオレを照らすのは三秒後ってこと?」

「そういう事だな。普通だと二秒弱で届きそうな感覚だけどな。」

「二秒弱で届くのが三秒もかかるなんて。なんでそんな遠回りするようなことするんだろう。」

「お前忘れてないか?光が…じゃなくて光の情報が伝わっているのは宇宙空間じゃなくてベリタス空間だろ。宇宙空間では遠回りのように感じられるけど、ベリタス空間ではそれが一番都合が良いってことだろ。」

 僕の理解できることではない。

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