その3-3

「今の池の波の話は何?えっ?えっ?えっ?」

「いや、だから、問題があるって言っただろう。」

 光は波として伝わっている。だからロケットの速さに関係なく秒速三十万キロになる。さっきの池の石でよく分かったさ。それが、何?急に最初の電車の話に逆戻りだ。

「これから話すのは光速度不変の原理語る時には必ずって言って良いほど出てくる結構有名な話なんだが。」

 ホ~、鉄板ネタがあると。

「宇宙船が飛んでいる状態で宇宙船の中央にライトを置く…一応断っておくが、ここからの話は等速直線運動…等速直線運動ってわかるか?」

「分かるさ、方向を変えずに同じ速さで進むやつだろ。」

 僕でもそれくらいは分かる。

「うん、等速度運動とも言うが、まあ、その、等速直線運動での話だからな。その、ライトを置いた宇宙船の前と後、ライトから同じ距離の所でこのライトの光を観測するようにする。そこでライトを宇宙船の前と後に向かって光らせる。前と後ではどちらが早くライトの光は届く?」

「同時だろ。」

「まあ、正解っちゃあ正解だ。」

 なんか中途半端だな。

「それはロケットの中で観測した時の話だ。外で静止してロケットを観測している人には後が先に届いて、そのあとに前に届いたように見える。」

「…………マジか?」

 ウッ。余りにもびっくりしすぎて普通の言葉しか出て来ん。

「マジだ。」

 ヨシオ、マジ顔。

「お前もおかしいと思うだろう。ロケットの中で同時に着くんだったら外から見ても同時に着くと思うよな。だけど、全く違った観測結果が出るという事にされていた。」

「されていた?」

「そう、されていた。そこは光速度不変の原理だから仕方ないよね~、って説明されていたんだが、そんな説明納得できるか?だからオレは物理が嫌いになった。」

 それはご愁傷様だな。

「だがベリタス説だとちゃんと説明できる。」

 ホ~。

「『その瞬間の空間』に伝えるという事。おまえはこれの重要性が分かっていない。」

 悪かったな。

「『その瞬間の空間』。これが活きてくる。まず、ロケットの中だが、大事なのは光った最初の瞬間と観測者の位置。光った最初の瞬間、ライトと前後の観測者は同じ距離。という事は必ず同じ瞬間に光が届く。これはお前が答えたヤツ。」

 ウム。

「次に、ロケットの外から観測する場合を考える。ライトが光った瞬間、前後に秒速三十万キロで光が進み、ロケットも前に進んでいるから、まず後に光が届き次に前に届く。」

 そんなバカな。

「このベリタス説の言っているのはあくまでも光った瞬間の光源…あっ、光の元な。…その光源と観測者の位置関係で光がいつ届くか決まるという事だ。」

 とてもじゃないが理解できん。

「こう考えろ。ベリタス空間で光源と観測者をその場所に…宇宙空間じゃなくてベリタスから見た空間な、ベリタスのその場所に固定してそこを光の波が進んでいる。どうだ?」

 そう言えば先生は写真を撮るとか何とか言っていたな。

「あ、分かった。そういうことだな。」

 なんとなくわかったような気がする。

「そう、ベリタス説だと無理なく説明がつく。おまえの言うベリタスというヤツが本当にあるとすればだが。」

「いや、本当にあるかどうかは俺も知らないが。」

「そうだろうな。」

 何を偉そうに頷いているんだ。

「あとな、このベリタス説で考えると面白い現象が見られる。例えばこの右側がライト、左側が観測者として、それからお前がこれを観測している。」

 と、ヨシオは両手の人差し指を自分の胸の前で構えている。

「両方同じ速度で動きながらライトを左側の観測者に当てたとしよう。どうなると思う。」

 両手人差し指を前の方へ動かす。

「え~と、観測者に光が届く。」

「うん、しかも。」

「しかも?」

「オイオイ、光は発射されたものの速度に関係ないって言っただろ。」

「あ、そうか、俺から観測すると観測者の後ろに行ったように見える?」

「そうだな。まず左側の観測者から見ると、ライトが自分に当たったと思う。」

「おおっ。」

「さっき言ったようにベリタス説ではこのライトが光った瞬間のお互いの位置関係を…そうだな、ベリタスの地図に残しておく。そしてこの光は宇宙空間ではなくてこのベリタス地図の観測者の最初の位置に進む。」

 ヨシオはもう一度自分の胸の前に両手を構えた。

「いいか、ここでライトが光った。問題は観測者の最初の位置。ライトが届いたのが上のこの位置でも…」

 両手人差し指を上に上げる。

「さっき残しておいた地図を参考に最初の位置にいたかのように届く。もしも、こっちは上、こっちは下という具合に逆方向へ動いても必ず光は届く。つまりベリタス空間は何かが起こったその瞬間の位置に応じて観測者に情報を届けるという事だ。光が届いた時の宇宙空間での位置は関係なしだ。もっとぶっちゃけて言うと光の目標は『位置』ではなく『観測者』ということだ。」

 そういう理屈になるな。

「それからこれを横から見ている、お前。お前から見ればこのライトは実は左側の観測者に届いていないように見えている。」

 そうだったな。

「ライトと観測者の位置の問題だ。これを見ているお前も観測者だ。と言うことはお前とライトの位置の問題でもある。このライトが上に動きながら光っても光った瞬間のお前とライトの関係から、お前からは真っ直ぐ左に向かって光ったように見える。だから、上に行ってしまった観測者には届かないように見えている。」

 分かったような気もするが…しかし合点がいかん。

「しかしなんで違うように見えるんだ?その…光が二本あるようだ。」

「光が二本……そうだな。その考え方から抜け出さないとな。」

 あ~っ?

「ベリタス説では光は宇宙空間を進むわけではない。」

 ん~……。

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