その3-2
「おい、どうかしたか。」
「いや、ちょっと待ってくれ。頭を整理する。」
ヨシオですら戸惑う内容だ。僕が訳が分からなくなるのも当たり前だ。
「……くな。」
急にヨシオが呟いた。
「なに?」
「これで説明がつく。」
説明がつくとはどういう事だろう。
「いや、待てよ、やっぱり…。ウ~ム、そうとしか考えられん。」
独り言の多い奴だ。
「お前、光の速さって大体秒速三十万キロって知っているよな。」
そうだったっけ?一秒に地球七周半って聞いたことある。地球一周四万キロで掛ける七のプラス二で確かに三十万だ。
「例えば、時速五十キロの電車から前に向かってボールを時速二十キロで投げたら、このボールは時速何キロになる?」
「七十キロ。」
「逆に後ろに向かって二十キロで投げたら?」
「三十キロ。」
「普通そうなる。だがな、高速の宇宙船…例えば秒速十万キロで飛べるロケット…まあ、作れないだろうが…そのロケットから前に向かって光を出したらこの光の速さは?」
「四十万キロ。」
「と思う。」
「と思う」って、僕が算数すら出来ないと思っているんだろうか。
「普通はな。が、しかしそうはならない。三十万キロのままだ。これを光速度不変の原理というんだ。あのアインシュタインがそう決めた。」
「アインシュタイン…。」
いや、決めたっ、て、そう簡単に決められるものなのか?
「E=MC
「でも」は余計だ、「でも」は。
「あ~、知ってるさ。」
意味するところは分からんがな。
「まあ、取り敢えずその式は関係ないからここでは忘れてくれ。」
じゃあ、なんで出した!
「光速度不変の原理の方だ。光の速さが一定なのは光の粒子が移動するのではなくて、波の伝わる速度だからそうなるのだという事。」
「どういうこと?」
「音は秒速三百四十メートルだというのは知っているよな。それは音の粒子の速度ではなくて音の波の伝わる速度だという事は分かるか。」
「そうなのか?」
ヨシオが固まっている。俺の事をかなり可哀想なヤツだと思ったのだろう。そうさ、僕の理系の知識は、中学校で止まっているかなり可哀想な奴だ。だから少しは同情しろ。
「マコト、ついて来い。」
お、なんだ。どこに行くんだ。どんどん暗いほうに歩いていくな。まさか僕と二人っきりになって…悪いが僕にはそういう趣味は無いぜ。幼馴染とは言えそこははっきりしておこう。おっと、ここは…池。ヨ…ヨシオ。僕は泳げない。突き落とされたら一巻の終わりだ。お、石を拾って何をするつもりだ。
「いいか、よく見とけ。」
なんだ?池に石を放り投げて……水面に同心円の輪が広がった。
「これが波だ。音の波もこんな風に広がる。もちろん風が無ければ、の話だが。もし、俺がこの波が広がるより速い速度で斜めから石を投げ入れたとしたら、石の速度プラス波の広がる速度になると思うか?」
「じゃないのか?」
「と言うことは石の進行方向に細長い楕円形ができる、という事だな?」
いや、普通に楕円形になるでしょう。
「そう…なる…かな。」
「じゃあ、よ~く見ろよ。」
お、水切りか。小学生の頃よくやったな。八回か。まあまあじゃないか。
「どうだ。」
「お~、上手いな。」
「そうじゃない。どんな波ができたかだ。」
水面に広がるのはいくつかの同心円。
「確かに…石の速さは関係ないな。」
「そうだ。波の速度はよほどの力が加わらない限り変わらない。同じように光も光を発射した…例えばロケットの先頭から正面に向かって光を発射してもロケットの速さには関係なく、秒速三十万キロだという事だ。」
ホ~、そうなのか。ヨシオは教えるのが上手いな。教師に向いている気がする。イヤ、人格に問題ある…。
「ところが、ここから問題がある。」
何だ?声を潜めて。
「どんな?」
「このロケットに乗っている人がこの光を見たら秒速何キロになると思う?」
「このロケットが秒速十万キロだったから、秒速二十万キロ。」
「今までの展開だとそう思うよな。それがごくごく普通の答えだ。」
「………?」
「っつうか、普通の感覚持った人間ならそう答える。」
二十万キロじゃないのか?
「しかし答えは秒速三十万キロ。」
はぁ?
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