その3-1
今日は暑い。冬なのに。冬の日差しじゃない。肌にチクチク襲い掛かる。これもベリタスの所業か。イヤ、こんなことはしないか。
隣のベンチでは七十過ぎくらいの紳士が携帯でなんかワーワー話をしている。
「いや、うちから三人、車で行くから。婆さんとマキと、ああ、マキは娘。三人で行くから。」
お~お~、家族構成まる分かりだぜ。そういう事はあまり大きな声で話さない方がいいと思いますよ。誰が聞いているかわかりませんから。
それにしても携帯持っている年寄りってなんで必要以上に大きい声でしゃべるんだろう。まるで話している相手が三十メートル離れているくらい大きい声でしゃべる。若者の歩きスマホも迷惑だが、大声で携帯相手にしゃべっている年寄りも大概に迷惑だと思うのは僕だけ?病院の待合室だろうがどこだろうがお構いなしだ。大体病院内って携帯電話の電源は切っとく、最悪でもマナーモードにしておくのがマナーってぇもんだろう。
この間病院の待合室で椅子に座っていたら、後ろの方でなんか騒がしい音がしているなと思ってよく聞いていたら携帯ゲームの音だった。全く、子供の躾がなってないぜ、どんな親だよって思って見てみたらゲームやっていたのは五十過ぎのおっさんだったヨ。若者のマナーよりおっさんおばさんのマナーの悪さの方がやたらと目につく。
「そうだ。じゃあ、電話番号言うから。」
え?やめとけ!
「ゼロハチゼロのサンサン…………。」
オーイ、誰かメモとれ!このおっさんから金巻き上げるチャンスだぞ。振り込めサギやり放題だぜ。ほんと、年寄りに携帯持たさん方がいいぞ。っつうか、振り込めサギ減らないのはこれが原因なんじゃないか?
隣のおじさんの話はどうでもいい。とにかくアイツだ。相変わらずアイツは遅い。まあ、今回は僕の方からお願いしたのだから我慢せんといかんが。
「よお、待ったか。」
「おでこで目玉焼きができるくらい待った。」
「すまん。」
「もう少しで振り込めサギやるところだったぞ。」
「はぁ?」
「悪い、聞き流してくれ。」
「お、おぉ。で、今日は何の用だ。お前の方から連絡くれるなんて珍しいな。」
「たいしたことじゃあない、って言うかその新聞何?」
なんでこいつは新聞持ってんだ?
「ああ、ちょっとしたサイドビジネス。お馬さんに手伝って貰うっていうやつだな。」
競馬か…。
「マコトもついに俺のおやじ手伝う気になったか。」
「違う。」
あれを言っていいものかどうか。…ウン。
「ヨシオ。お前ベリタスって知ってるか?」
「ベリタス?」
なんだそれは?という顔をしているな。
「う~ん、そういう名前の会社があるのは聞いたことがあるが。」
「いや、会社じゃない。なんというか、こう、宇宙に寄り添うっていうか。」
「寄り添う?」
どう説明したらいいんだ。
「例えば…この千円札だがな。」
先生の説明をそのまま使おう。
「この千円札は表裏そしてこの横側の全部で六面見えているよな。」
「オ…オ~。」
「この見えているところをこの宇宙だと思え。」
「オ~。」
「この千円札の存在はこの見えているところでわかるよな。」
「…そうだな。」
「しかし~、この表と裏の間の見えない部分、ここも千円札だ。ここが無いと、この千円札自体も存在しない。」
「……そういうことになるかな。」
「この見えない部分をベリタスと呼んでいるそうだ。」
「……誰が?」
「…イヤ、分からんが。俺の知り合いがそう言っていた。」
そう言えば誰がベリタスと言っているのか聞いたことなかったな。
「それで、その、…べ…ベタリス…。」
「ベリタス。」
「あぁ、そのベリタスがどうしたんだ。」
「どう言えばいいか…。」
魂の話は今回はやめておこう。頭がおかしくなったと思われたらあれだし、下手すると、怪しい新興宗教にはまったと思われかねない。
「さっきも言ったようにそのベリタスは宇宙に寄り添うように、表に出ないように存在している。いや、存在しているというか、とにかく目に見えないしこの宇宙の中にはないのだが近くにあるわけだ。」
「あ~、なんとなく分かった。四次元空間とかそういう異次元にあるという事だな。」
おっ、呑み込みが早いな。さすが理系だ。
「光って分かるか。」
「お前よりは分かっているぞ。」
ふふん、ヨシオのヤツ僕をバカにしてるな。これから僕の話聞いて驚くなよ。
「お前まさかとは思うが、光ってここで発生した光の粒子がこちら側に届いているとか思っていないか?」
「そうだな。粒の状態でもあるし、波の状態でもあるが、とにかくそういう状態で光は飛んでいるな。」
そうだろ、そうだろ。そうこなくっちゃ。
「と、思うよネ。」
「イヤ、『と思うよネ』じゃなくてそうなの。そういうことになっているの。」
「それが違うんだな~。」
「じゃあ、どうだってんだ。」
ちょっとイライラしてきたみたいだ。
「例えば太陽。あそこで光っているよな。」
「おぉ。」
「で光って、その光がここまで届いている、と思っているよな。」
「だからさっきからそう言ってるだろうが。」
「ところがだ、その太陽の光とか熱とかいろいろなものをベリタスが感じて、ベリタス空間と宇宙空間の間にベリタスが現れてその情報をその瞬間の空間に波のように伝えて、そして、何か物に当たった時に光の粒子として現れて目に見えるという事なのだよ。」
僕の顔を穴が開くほど見ている。そうだろう、そうだろう。僕も最初に聞いた時には訳が分からなかったからな。
「…お前……文系なのに説明が下手だな。」
悪かったな。
「まあ、良い。理系の内容を説明しろと言われても難しいだろうから。もう一回確認しとくが。」
「ウム。」
「まず星が光る。で、その光、具体的には熱、温度、その星の状態などだが、その情報をベリタスがベリタス空間と宇宙空間の間を波のようにその瞬間の空間に伝えていく。そして、物体に当たると実体として現れる、という事か。」
「うん。」
ほぼその通りです。さすが理系です。
ヨシオは目を閉じ考え込んだ。まるでロダンの考える人の様に。あ、あそこまで前かがみにはなっていないが。
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