その2
本当に腹立つ。人んちの前で犬に糞させやがって、ちゃんと処理しやがれ。あのポメラニアンのものではないことは確かだ。僕の家の前は通らないから。大体、社会のルールを守らないやつが多すぎる。歩きタバコしたり、平気で二人乗りしたり、自転車乗りながらスマホしたり傘さしたり、車運転していたらウインカーも出さずに平気で割り込んできたり。どうなってんだ。
もっと言うとだな、渋滞なのに右折でコンビニ入る車!いや、コンビニがそこにしか無かったら良いんだ。だがここまで来るのにコンビニ何件もあったし、おんなじ系列のコンビニ左側にさっきあったじゃん!なんで右側にわざわざ入ろうとして、渋滞を悪化させようとする?これじゃあ、無我の境地に達することなんかできやしないぜ!おっと、先生の合図。
「どうしました?まるで駆け込み乗車した人を見たような目をしていますが。」
「あ、すみません。」
「心を落ち着かせてくださいね。」
そうだ、心を落ち着かせろマコト。
「はい…。すみません。」
ダメだな。僕。
「生きていたらいろいろありますから、そんなに自分を責めないでください。ヨガを続けていれば心も穏やかになっていくと思いますよ。」
「そうですか…。」
「佐藤さんはヨガを始められてまだ七ヶ月ですよね。心はまだまだ揺れ動いていると思います。でも、佐藤さんは大丈夫です。」
なんだ?その「大丈夫」っていうのは。初回の時にも聞いた覚えがあるが。まあ、それは置いといて。
「それにしても重力って面白いですね。」
「ゆがんだ空間だと光も曲がって進んでしまいますからね…曲がってと言うのはちょっと違うか。」
光が曲がる?いや、光は直進するって習ったぞ。どっかで。
「佐藤さん、そもそもですが、光って何だと思います?」
光、ひかり、ヒカリ、hikari…確か高校の時に実験で何かを見たような気がする。
「あの、電子の粒…の集まり…ですか…。」
もう、ほとんどダメだ。何言っているのかさえ分からん。
「そうですね、そう考えてしまいますよね。」
やっぱ違う、ってそうだろうなとは思ったさ。
「レーザーポインターってありますよね。」
あ~、会社のプレゼンとかで使うあれね。今は会社辞めてるから使わんけど。懐かしいな~。
「スクリーンに当たっている部分は明るくなっているのでわかりますが、この手元からスクリーンの間の光って見えています?」
上を向いて思い出してみる。いやあ、見えていないような気がする。
「太陽から地球に向かって太陽の光が注いでいますが、その間…太陽と地球の間の光の線って見えていますか?」
宇宙空間は暗いな、そう言えば。
「…見えて…いない…と思います。」
「そうですよね。つまり光には実体が無いのです。観測されるまでは。」
…………エッ?
……実体が無いって……どういうこと?
……しかも「観測されるまでは」って。
「観測するというのは、例えばこの地球に光が当たるとか私達の体を照らすとかそういうことです。何かに当たるまでは、私達にはそこに光があるかどうかさえ分かりません。」
また難しい話になってきた。光があるかどうかわからない?いや、あるし、明るいし、普通にいろんな物見えてるし。
「今ここに光があるというのが分かるのは、周りや、ここにある物が見えているからです。」
光があるから物が見えてそこに物があるって分かるわけで、物が見えてるから光があるって分かるわけではないんじゃないか?
「では想像してください。もしここに何もなかったら、そう、部屋も何も無い暗闇でレーザーポインターを使ったとして、何か見えるでしょうか。」
何もないところ?何もなければ、レーザーが当たるところがない。
「……何も…見えない…と思います。」
「その通りです。あ、ただ、手元のレーザーポインターの先端は光っているのが見えるかもしれませんけどね。その他の物は何も見えません。光は対象物があって初めて光と認識されるのです。」
そう言われればそんな気がする。映画館で映画観ていて、もし映写機とスクリーンの間の光が見えてるとしたらまぶしくて映画鑑賞どころではない。
「光、熱、電波、空間の伝わり方は全て同じです。と言うか光、熱、電波そのものが空間を伝わっているわけではないのです。」
はぁ?伝わっているじゃん。実際に太陽の光届いているじゃん。
「太陽の光で説明しましょう。太陽から熱などが発生します。発生したというその情報はベリタス全体に瞬時に伝わります。」
「ベリタス全体に、ですか?」
「そう、『ベリタス全体に』です。何度も言いますが、ベリタスと宇宙のつながりは物と物のつながりではなく、ベリタスが宇宙の全てに同じようにくっついている感じです。」
この感覚なかなか慣れない。
「太陽の光や熱などを感じてベリタスが宇宙空間とベリタスの空間の間で波のようにその瞬間の空間に伝えていきます。」
「その瞬間の空間というのは?」
「太陽から熱が発生した瞬間の空間…。説明は難しいのですが、その瞬間の全宇宙の立体写真が作られる感じです。その写真に従って光はベリタスの空間を伝わっていきます。」
写真ってことは他は全部動いていない感じなのかな。
「ということは、その、地球とか動いてても関係ないということですか?」
「そういう事になりますね。で、その波が地球に届き、まず大気圏の空気に触れます。そこで波が空気に触れることでパルウムとなり大気圏に光や熱などの実体が現れます。これが青空です。」
「あの、ベリタスの空間を通ってここに空気があるなというのが、波にはわかるんですか?」
「全宇宙の写真が作られると言いましたが、その写真にはこの宇宙の全ての物質が写っているんです。」
「あ、なるほど。」
「そうして空気に触れなかった波が地面に届きます。地面に届き地表にある全ての物の表面でパルウムになって光や熱などの実体が現れます。そうして周りの物が見えるようになります。」
「では、地球に届くまでは。」
「光としての実体はありません。」
どういうことなのだろうか。光の粒が地球に届いているのではないのだろうか。
「例えば…あっ、この延長コードのこちらを持ってください。」
とプラグの方を持たされた。先生は反対側を手に持ち床の上で左右に揺らした。
「このように波が起きました。この波は佐藤さんに届いていますが、私の持っているこの部分は佐藤さんの方へ移動したでしょうか。」
こちらへ来たのは波だけで、先生の持っている部分その物がこちらに届いているわけではない。
「…いいえ。」
「そうですね。これが波です。物体ではなく力だけを伝えるのです。海も同じように、海面が次々と上下することで波が起き力が伝わりますが、水そのものはその位置で上下するだけなのです。よくスタンドで観客がウエーブしているのを見ますが、あれが文字通りの波なんです。」
ウエーブか。そう言えばあれも人間が立ったり座ったりしているだけでまるで波のように見えるよな。
「この蛍光灯から発せられた光の粒が波のように振る舞いこの床に届く、そのように考えられていますが、実は光の粒そのものが届いているわけではなく、性質だけが波として伝わり、届いたら光の粒が現れるという事です。」
まず太陽が燃える。光や熱の情報がベリタスによって波となってベリタスと宇宙空間の間で広がる。その波の一部が地球にぶつかり光として現れる…。なんのこっちゃ。ウム、取り敢えずこんな時にはヤツだ。
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