第77話 アンセスター

【概要:拳姫ミーチャvs巌流プルエ 決着】


ミーチャvsプルエ。


心臓を穿うがたれたはずのミーチャの

まさかの復活にプルエは驚きを隠せなかった。


そして、同時にナノプローブに侵され狂気を孕んだ脳は歓喜する。

もう一度、このきのいい獲物を狩れるのだ。

もう一度、人を斬れるのだ。

これが楽しくないわけがない。


プルエはうにゃりと笑うと再び剣を上段に構えた。

とっさに、ミーチャの体内なかの"ご先祖様アンセスター"はこういった。


『レッスン1。』


『相手の技が見切れないのなら、とにかく動きなさい』


『動くモノには当てづらい。それはどんな達人でも同じこと』


『アルマイティー・アーツ"ペレ"それがここでは一番いい』


ミーチャは動いた。

早く、速く、疾く、そして揺らぐ。

その動きはまるで風にたなびく炎のよう。


その独特の揺らぎが、プルエの剣をことごとくかわしていった。

だが、プルエの鋭い剣さばきがしだいにミーチャの体を

かすめるようになっていく。


『そうそう。これはそういうもの』


ペレは相手を誘う幽玄の炎』


『それではレッスン2。』


『敵の攻撃は打たせなさい。』


『先刻の心臓への突きは"打たれた"もの。でも今回のこれは"打たせた"もの』


『一文字、違うだけだけど。その意味は天と地ほども違うのよ。』


プルエがミーチャの動きに次第に合わせてきた。

その独特のリズムを見切りつつあるのだ。

しかし、ミーチャの体はそのことを知っていた。


そして動く。

突如、急変したミーチャの動きにプルエは反応が遅れる。

ペレの動きにらされすぎていたのだ。

そして放たれる必殺の足先そくせん蹴り。


水月にまともに決まり、くの字に体を曲げ悶絶するプルエ。

初の攻撃のヒット。

しかし、ミーチャは喜びではなく驚きの表情を浮かべていた。


『ごめんなさい。少し体を引かせてもらったわ』


『本当なら今のでも決まってたけれど、あなたは兵士ソルジャー。』


『積める時に、できるだけ経験を積んでおいた方がいい』


『それに、一時はあなたが殺された"あの技"を破らないとおさまりがつかないでしょ?』


プルエは腹を押さえて再び、立ち上がる。

そしてあの上段構え、秘剣・ツバメ返しの構えを取った。


『レッスン3。』


『打たせてマズイものは封じなさい』


『あの秘剣はいうなれば必中の剣』


『一見、無敵に思えるけれど要は打たせなければいいのよ』


『"必中"には"最速"で対処しましょ』


『ここはアルマイティーアーツ"トール"で決まりね。

最速・最強の打突法よ。』


『これにてレッスンは終わり。ご清聴ありがとうございました』


疾風の速さで動くミーチャ。

白筋を総動員した急加速打撃。


その神速の打拳はプルエに剣を振るヒマさえ与えなかった。

顎を高速で打たれ昏倒するプルエ。勝負はこれで終わったのだった。


『あらあら、当然心臓狙いかと思ったら、ずいぶん甘いのねえ』


『まあいいわ。でも私のレッスンはまだあるのよ。』


『今やった一連の動きはアルマイティーアーツのほんの初歩』


『いずれ、また教えてあげるわ。楽しみにしていてね。』


『いえいえ、礼なんていいのよ』


『というか…そういう事態にならない事の方がお互いのためかもね……』


ご先祖様の声が次第に遠ざかっていく。

深いトランス状態のミーチャは意識を取り戻していた。


そして胸部に走る激痛。

ミーチャはその場にうずくまって嘔吐し意識を失う。


30分後、支援部隊の駐屯地には担架で担ぎ込まれる

ミーチャの姿があった。

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