第74話 マキシマム
【概要:アモンvsギー】
なんという奇跡。
なんという僥倖(ぎょうこう)。
なんという喜び。
なんという幸せ。
そしてなんというバルク。
死んだはずの人間が立っていた。
以前にも増して力強く。
以前にも増して神々しく。
その肉体は高らかに歓喜の歌を歌う。
喜びの音を奏でる。
ここに存在(いる)ことの喜び。
ここに存在(ある)ことの喜び。
それは何ものにも変えがたい愉悦。
それは誰にも奪えない事実。
強さを求める生命の最高峰たる人の肉体。
連綿たる命のサイクルで生み出された
人間という奇跡の肉。
その肉で存在(あれ)る幸せ。
無能でも無才でも構わない。
何もできなくたって問題はない。
人で存在(ある)。
たったそれだけで肉体は喜びに打ち振るえ、
歓喜の歌を歌うのだ。
なぜなら生命が求める究極の領域。
有機物の目指す最終到達点。
それが人の肉体であるのだから。
それが人の身体であるのだから。
『だから教えなくっちゃあね』
『ああ、教えなくちゃ』
『やさしく、じっくり、おだやかに』
『激しく、きっちり教えましょう』
『ダイキライなあいつに』
『だいすきなあいつに』
『喜びの歌を』
『歌う喜びを』
ギー少佐が女皇に向けて放った手刀はその首に届くことはなかった。
拳である。
それも超高速で疾はしってきたアモンの拳に顔面を打ち抜かれたのだ。
水平に吹き飛ぶ、ギー少佐。
遠方のサイロを2つ突き破り、岩場に激突して止まった。
即死級の打撃であった。致命的な衝撃であった。
しかし、ギー少佐は立ち上がる。
体は黒く歪いびつに変化していた。
ギー少佐の奥義、地刹数(ちさつすう)である。
その七十二般の変化術により、身体を変形・硬質化させて防いだのだ。
ギー少佐は、この技に加えナノプローブをも副作用なく使いこなしていた。
地刹数(ちさつすう)の戦闘特化形態とナノプローブの身体能力強化。
その二つがギー少佐を無敵のモンスターに変貌させていた。
強化した筋肉をフル稼働させ
アモンの前に一瞬で飛んだギー少佐は返礼とばかりに渾身の打撃を見舞う。
だが、動かない。微動だにしない。
驚愕の表情を浮かべるギー少佐にアモンは再び拳を打ち込む。
飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。
ギー少佐の体は、まるで弾丸のように横に疾はしり、
再び岩場に突っ込んで止まった。
そして吼える。
「この蛮獣があああああああああ!!!!!」
再び疾はしるギー少佐。その身体はさらに大きく禍々(まがまが)しく変容し、
もはや人の形を留めてはいない。
アモンも疾はしる。
二人の巨獣は激突した。
飛び交う拳、拳、拳、拳。
超速で放たれる拳の雨。
拳と拳が交錯し、火花さえ散らした。
一発で肉を潰し、一撃で岩をも砕く剛拳の嵐。
それはもう人の戦いではなかった。
これは神話の戦い。
神々に捧げられるべき聖なる宴。
言わば宇宙規模で敢行されるイニシエーション。
ルシャンティが誘い、ザケルが育てた巨獣アモン。
尋常ならざる克己心と野望で人を超えた超獣ギー。
この二人の邂逅は運命であり必然。
その時、二人の超雄の熱気に当てられ目覚めたモノがあった。
目覚めてはならぬモノがあった。
体を上げて二人の戦いを見る女皇。
その瞳は金色に妖しく光っていた。
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