第73話 ティア

【概要:アモンの体内にて6つの異形が語り合う】


『いやあ…完敗だなあ』


『まさに乾杯!…ってね♪』


『…おう』


『おう!じゃねえよ!かーっ乗り悪いなああ!!』


『乗れるかよ。俺たちゃ死ぬんだぜ?』


『まあ、それなんだけどさ。正直あの勝負には疑問があるね』


『そうそう、僕も思ってた!あれは汚いよ。後ろからいきなりだもん』


『それにザケル戦での疲労もあったしね。勝負なしにして欲しいね』


『そうそう!もう一度まっとうに勝負しろってんだよ、おう!』


『何を言ってやがる!あれがまっとうな勝負だろ?あれが殺し合いだろ?

 不意を突かれて殺されたから、もう一度なんてありえねえんだよ。

 いつだって生きて立ってた奴が勝利者だ』


『しかし、あれが有りになると強さ議論が成り立たなくなるな』


『だな。このままだと女装したギー少佐が最強になるぜ。嫌だろそんなの。』


『だから奴(やっこ)さんも言ってただろ。強さとは曖昧なものなんだ。

 歴戦の猛者でも流れ弾であっさり死ぬこともあるし、仮に強さを

 人の殺害数で表すなら人間よりも、蚊の方が圧倒的に殺してんだぜ』


『まあウイルスには勝てんわな。パンチも効かんし』


『それよりも、ほら、来たよ嫌な奴!』


『死のサインか…』


『まったく、生き死にくらい自分の意思で決めさせて欲しいもんだ』


『俺たちのことを意思というのかは疑問だが、それには同感だな。

 誰かに尻を叩かれてってのは勘弁だぜ』


『だからこその筋肉。だからこその力だったのに僕ら情けないね』


『ああ、情けないな。だが負けるとはそういうことだ』


『負けるって死ぬこと?』


『そうともいうが、負けるってのは己の意思を挫(くじ)かれることだと思っている。妨(さま)たげられることだと思っている』


『いや、でも人の生活ってそういうもんでしょ?自分の意思を妨げられない人間なんて、この世にいない。独裁者でも人目は気にするしね』


『そうだな。人間は意思を通すため、より強さを求め群れを作った』


『だが結果、求められたのは集団の中で折り合うための処世術。

 人の強さとはそもそも不純なんだ』


『不純といやあ、俺は"一つ"だけ納得できないことがある』


『おう!俺もそれは思ってたぜ』


『ふむ、同じ肉だ。まあ考えることは一緒か。』


『アモンにあって、ザケルにもある。でもギー少佐にはないもの』


『人であるならそれは普通だ。でも肉であるならそれは異常だ』


『その生き様が失わせたのか。元々ないのか…』


『なら教えてあげなきゃね。』


『どうやって?もう死のサインは出ている。…終わりだよ』


『僕ら忘れているけど、前にもこんな風なことがあったんだよ。

 それを思い出した。ほら!この雫(ティア)でね』


『おいおい…それって…』


『さっきからお前だけ見ないなと思ってたが、それを取りにいってたのか』


『聞こえない?悲しみの声が。彼がこの体に取りすがって泣いているのさ。

 これはその涙』


『この匂いは…あの子か!あの子だ!あのアルビノの…何でここにいる?』


『恐らくはトラックの荷台にでも忍び込んでいたんだろう。

 アモンと離れたくなかったんだ。』


『それでアモンの死体を発見し泣いているわけか。』


『泣きたいのはこっちさ。…それに、できればもう少しカッコイイ死に方したかったよ。

 逆さって、結構恥ずかしい死に方だよね?』


『涙ね…だがそれがどうした?別に少々の塩分を補充した所で何にもならんぞ』


『これはクイーンティア(神の雫)さ』


『何ッ!!?』


『ば!バカな!!』


『そんなことはありえない!!!!』


『ありえるんだ。いや、ありえたんだよ。だから僕らこうして生きている。

 ありえたからこそここにいるんだ。皆もう忘れてしまっているけどね』


『だから、もう一度やろう。あの時は奇跡だと皆言った。

 でも奇跡が二度続けばそれは必然。起こるべくして起こる神の御業。

 なら僕らはそれにゆだねるだけ。違うかい?』


『う~ん。現物を見せられると否定もできんな。でも、これはたしかにクイーンティア』


『命の核となる。聖なる雫』


『これならいけるかも?』


『うむ。いけるだろうな。』


『とりあえず死のサインを止めて、折れた骨を修復。

 破断した神経と血管を繋いだら、立たせてパンプアップとバルクでいいか?』


『ああいいね。大変な作業だが、僕らなら楽勝だ。』


『縛りがない分、思い切りやれるね』


『まあな。そういう制限を取っ払うのがクイーンティア。だが下手すると

 真空崩壊も起こしかねない物騒なブツだからみんな慎重に摂取しろよ。

 じゃねえと冗談抜きでこの星ぶっ飛ぶぞ。』


『よし!なら、戻ろう。愛しい大地に。』


『うむ、戻ろう。愛しい世界(我が家)に。』


『ムカツクあいつをぶっ飛ばしに!!!!!!』

『ムカツクあいつをぶっ飛ばしに!!!!!!』

『ムカツクあいつをぶっ飛ばしに!!!!!!』

『ムカツクあいつをぶっ飛ばしに!!!!!!』

『ムカツクあいつをぶっ飛ばしに!!!!!!』

『ムカツクあいつをぶっ飛ばしに!!!!!!』


死してから動く細胞がある。

死してから始まる世界がある。

それらは、通常なら肉体を大地へと還すための一連のプロセスに

すぎないのであるがアモンの肉はそれを断固として拒んだ。


男の図抜けた獣性が。

男の図抜けた雄度が。

このまま死を受け入れることを断固として拒んだのだ。


そんなことは絶対にありえない。

ありえないが、もしありえたとするなら現実的にわかることが一つだけある。


筋肉は破壊されることでより強固にそしてより強靭になる。

脳が次の破壊を想定し、その部分を強化するためだ。


ならば死んだアモンが復活という奇跡を得たならば?


もしそんな奇跡が起こり得たならば

この男の脳が次の死を免れるために己が肉体を極限まで強化することは

想像に難くなく。

ヘラクレスのごとき肉体をさらに強化した男の肉体は

もはや人知を超えた次元にあった。


壊し屋アモンここに復活!!!

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