第69話 リユニオン

【概要:アモン参戦】


田園地帯で激しい攻防を繰り広げる近衛隊と抜刀隊。

戦士団、支援部隊も女皇を逃がそうと奮戦するも

数の不利は否めず抜刀隊の厚い包囲網に

穴を開けれないでいる。


満身創痍のダロス。疲労困憊で膝を突くライドー。

そこへ、無線を持った通信兵がやってきた。

無言で無線をライドーへと渡す通信兵。


朗報であった。

それも超ド級の。

ライドーは、ダロスや近衛兵に下がるよう声を飛ばした。

女皇を守るために、ただでさえ少ない兵を分散し

周囲に広めの防護陣を引いて消耗し続けていたのだ。

だがもうその必要もなくなった。

あの男の戦いの邪魔をしてはいけない。


突如、抜刀隊の遥か後方で怒号が響く。

そして舞う人、人、人。

一人の男が、かかって来る者すべてを平手でなぎ倒し、

こちらへ向かってきているのだ。


その様はまるで暴走機関車のよう。

こんなマネができるのは世界でもただ一人。


「へへっ…さすがはアモンさん。まったくすごい男だ」


ライドーは頭をかきながら言った。

そう、アモンである。

アモンが支援部隊の部隊長ハンナ・ロマナイエの依頼で

参戦してきたのだ。


千切っては投げ、千切っては投げ、大の大人が

まるでボールのようにポンポンと宙を飛んだ。

丸腰の男一人に、刀や銃で武装した軍人が手も足も出ないのだ。

もはや、この男の戦力は災害だといえた。


死を覚悟しながら戦う決意をも軽々と吹き飛ばすその暴威に

さすがの抜刀隊もたじろぐ。たった一人を除いては。


ザケルは走った。待ち人の下へ。

アモンは笑った。再開を喜び。


そして二人は同時に拳を放った。

拳圧で大地を吹き飛ばすアモン。

涼しい顔をしてアモンの顔面に拳をメリ込ますザケル。

二人の超雄は再開を祝い、軽めのあいさつをしたのだ。


紆余曲折を経て

アモンとザケルが今ここに再戦を果たすことになった。


この戦いは両軍の命運を賭けたものになるだろう。

何故ならアモンを倒せるのはザケルだけであり、

そのザケルもアモンにしか止められないからだ。


ギー軍の勝利のためには今ここで女皇の命を奪わねばならない。

それが腐敗しきった軍閥政治を一掃することにも繋がり

ギーが新王としてこの国に君臨するための条件。


だが、それで本当に平和な世の中になるのだろうか?

答えは否である。

どんな理想を掲げようと、所詮はただの利権を巡る

争いにすぎない。


国家の戦争もヤクザの抗争も本質は一つも変わることがないのだ。

だれが勝利者となるかという為政者たちの戯たわむれ。

どちらでも同じことだが、それでも失われていく命。

ある学者はこれを人の本能なのだといった。

状況や理屈に関係なく、すべての戦いは人の闘争本能のなせる技だと。

だとするならこれほど空しいことはない。

これほど無意味なことはない。


多くの犠牲の果てに勝ち取った未来が

再び闘争を生むのなら、いったい何のために人は戦うのか?


わからない。

それは恐らく誰にも。


だから、ザケルはここに立っている。

だから、アモンはここに立っている。

わからないからこそ、ここにいる。


深く、強い衝動の果てに再び邂逅した二人。

アモンは己が強さを確かめんがために。

ザケルは極限まで鍛えた技を使用するために。


巡る様々な想い。

理不尽な世の中への憤りや怒り。

戦災いくさわざわう人々への哀しみと慈しみ。

それらすべてを内包した人の想念。

その二つがここで出会い、そして響きあう。


これから始まる戦いは、もう誰にも止められはしない。

だがこれは二人が望んだものだ。二人の意思で始めたものだ。

生き方を選べた男たちではない。しかし、これは自らが望んでする戦い。

そしてそれこそが二匹の獣の誇り。


対峙して構える二人の男。

戦場は静まり返っている。

この二人の戦いを邪魔できるものなど

もはやこの戦場には残っていなかった。


風と草のざわめき。静謐せいひつな雰囲気の中

アモンとザケルの戦いは始められた。

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