第66話 グリーン
【概要:拳姫ミーチャvs巌流プルエ】
緑の軍服が特徴的な女であった。
プルエ・リュ・ピルエット。
ギー軍抜刀隊の隊長である。
ギー軍の抜刀隊は12番隊編成であり、彼女は2番隊の隊長。
もっとも、他の11名の隊長はバルクレイ平原の戦いでことごとく
戦死を遂げており、隊長格は今や彼女一人であった。
実力は隊長クラスの中では5番程度といった所だが
彼女が旧世界の文献から見出した剣法"巌流"の秘剣は
絶対に見切れないと評判が立つほどであり、事実、その技で
数多くの敵を屠っていた。
そんな彼女は、近衛隊との戦闘ですでに8人の兵を斬る。
そして、うにゃりと笑う。
ナノプローブの副作用で、人間性が失われつつあるのだ。
彼女が自制の効かない血に餓えた獣のような精神性になるまでには
そうは時間はかからないだろう。
だから探した。
正気の内に、すべてをブツけられる相手を。
自分の人生のすべてといっても過言ではない
"巌流"を受け止めるられる好敵手を。
そこにブロンドの髪を翻ひるがえし支援部隊の兵士が通りかかった。
女皇と友軍を援護するため駆けつけてきたミーチャである。
プルエは、ミーチャを視認すると刀を上段に構えた。
ミーチャもプルエを視認し、両手で構える。
プルエの武器は刀。
ミーチャの武器は拳。
一見いっけんミーチャが圧倒的に不利だと思われるがそうではない。
プルエは刀の重量の分だけ、動きに制約が科される。
さらに、ひとたび拳足の間合いに入られると、取り回しの差で
どうしても対応が一手遅れることになる。
相手が普通の身体能力の者なら、何の問題もない程度の遅れだが
それがミーチャのように全身が白筋でできた者だとそうはいかない。
一撃で頭蓋を砕かれ、一蹴りで内臓を潰されるだろう。
ゴリラ並の力を有した者には、素手の不利は不利とならないのだ。
そのことを威圧感として悟ったプルエは、秘剣を放つことに決めた。
この者こそ、あの奥義を放つに相応しい敵。
待ち焦がれた好敵手。
ミーチャもその構えの異質さに恐怖を感じ、
プルエの瞳を凝視する。
ザケル直伝の見切り術である。
そして、ミーチャはプルエの剣の軌道を予測した。
ミーチャに向かって疾はしるプルエの刀。
ミーチャは余裕を持って、その上段斬りをかわした。
踏み込むミーチャ。
右のストレートを打ち込むためだ。
そこでミーチャは驚くものを見る。
何とプルエが刀を下おろし構えを解いたのだ。
この命のやり取りの最中にである。
常識では考えられなかった。
だが、ミーチャはその行動が"戦闘が終わった"からだというのを
自らの胸から出る鮮血と激痛で知る。
そう彼女は斬られていたのだ。
致命的にも、心臓を一突きで貫かれていた。
"巌流・秘剣ツバメ返し"
上段斬りからすばやく返し斬り(突き)を放つ巌流の奥義である。
創始者の佐々木小次郎をもって、無敵と言わしめた秘剣。
特徴はその鮮やかな切り返しにあるといわれ、敵が上段斬りに対応した時には
もう返し斬りが決まっているという繋ぎの剣の流麗さは
宮本武蔵に敗北するまでの佐々木小次郎を最強たらしめた。
プルエはその幻の秘剣を再現するのに成功していたのだ。
予測術で刀の軌道を見切ってかわしたミーチャだったが、
かわした時には、プルエの返し突きで心臓を
痛みで、うつ伏せに倒れるミーチャ。
その意識は急速に薄れていった。
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