第65話 エンキョウ
【概要:侍エンキョウvsザケル】
響く剣撃と銃声。
ケイヤ北西部で起こったギー軍抜刀隊と女皇近衛隊・パレナ戦士団の
戦いは苛烈を極めた。
包囲網を突破しようとする近衛隊と戦士団。
押し止めようとする抜刀隊。
そこに後発の近衛隊と現場近くに駐屯していた支援部隊ヴァルキリーが参戦して
現場は混沌の
ライドーは数人の近衛兵とともに女皇の近くで待機。
抜け出るタイミングを
その時、激戦地から少し離れた所で
戦士団のエンキョウは、あのザケルと向き合っていた。
エンキョウの後ろには、抜刀隊の死体が複数、転がっている。
ある者は体を胴から寸断され、ある者は刀の柄を頭蓋骨にめり込ませ、
またある者は受け太刀した刀ごと体を押し斬られていた。
すべてエンキョウが作った死体である。
一撃必殺を旨とした
その凄絶さはまさに鬼神の如し。
ザケルはその鬼気迫るエンキョウの気迫と威圧感に
一瞬たじろいだ。
その隙を逃すわけもなく、野獣のごとき野蛮さで
エンキョウはザケルに斬りかかる。
その裂ぱくの気合は周囲の空気を打ち、
雷光のような剣閃は視認するヒマさえ与えない。
ザケルはエンキョウの動きを読んでいた。
読んでいてなお、かわせないほどの速度。
休むことなく繰り返された数え切れぬほどの
立て木打ちの果てに成せる神域の技。
ザケルがその究極とも言える見切り術で
相手の動きを一拍待つ、その刹那の間に
疾り抜ける剣である。
まさにザケルにとっては天敵のような相手であった。
その鬼神の剣が、ザケルの体を通り抜けた。
斬った。ザケルを斬った。
あのザケルを俺が!
エンキョウがそう錯覚するほどにザケルの動きは鮮やかであった。
反射ではかわしきれないと判断するや、ザケルは体のスイッチを切る。
つまりは一時的に気を失った状態になったのである。
脳内のエンドルフィンを利用した特殊なテクニック。
これによりザケルの体は重力に引っ張られ急速に地面へと落下。
下降中に意識を取り戻し、体を右に捻った。
結果、ギリギリでエンキョウの刀をかわすことに成功したのだ。
神経伝達の速度では間に合わないと判断したザケルは
絶えず人の体を引っ張っている星の重力を利用して、
あの鬼神剣を回避したのである。
そして跳ね上がるエンキョウの頭部。
かわす動作をそのまま利用しザケルが後ろ回し蹴りを
放ったのだ。
並の男の蹴りなら耐えることができただろう。
達人の技でも一度は耐えてみせる自信があった。
だが、今回放たれたのは超一流の拳法家ザケルの鮮やかな後ろ回し蹴り。
抗うことなどできようはずもない。
エンキョウはその蹴りで完全に意識を失い地に倒れた。
斬れた袖を見ながらふうと息をもらすザケル。
これほどの剣の使い手はそうはいない。
素直に感嘆の思いがあった。
そして
この男の何の躊躇もない剣が。
戦場で生まれ、ただ人を斬る事のみに特化したその剣が。
浮ついた気持ちでここに立っている自分が恨めしかった。
その心を見透かされ、たしなめられている。そんな気がしたのだ。
自分はここに立つ資格すらない。
煙で霞む周囲のほぼ全域で聞こえる
人の怒号と剣撃。
それらを聞きながらザケルは、エンキョウの体を周囲に生えた
イエローウィードで隠し、戦場を移動した。
ただ自らの本能が知覚する"いい予感"だけを信じて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます