第63話 カー

【概要:女皇護衛者vsギー軍抜刀隊】


ケイヤ北西部・田園地帯。

その休耕地を縫うように舗装された道路が伸びている。


そこを進む7台の車があった。

中央の防弾車を挟む形で前と後ろに3台づつ配置されている。

中央の防弾車には女皇が乗っているのだ。


バザムからの指示で西にあるという

御用邸へと避難するためだ。

この他にも先行した車が5台。

後方から、追撃を警戒する車が5台配置されている。

警護は万全であった。


しかし、前方から2台目のバンに乗っていたライドーは

一抹の不安を感じていた。そしてその不安は些細な、

だが具体的な変化となって現れる。


その変化を隣で座るエンキョウにこう話した。


「音が止まった」


『あん?』


「いやね。さっきからうるさいほど鳴いてた虫の声がさ。

 急にやんだんだよ」


『…おう。まあ、虫も疲れたんだろうな』


「一斉に疲れるかね?」


『まあ、な。たまたま虫がいない所にきたのかもしれん』


「それはそうだが…少し嫌な予感がしてな」


「虫が鳴くのは雌を誘うためだ。つまり生命に危険が無く、

 余裕がある時だけ」


「だから天敵やたとえば人間が近くにいる時なんかは絶対に鳴かねえ。

 これで俺の言いたいことはわかるな?」


『伏兵か?…まあ、わかるが。そのために先行車を走らせてるんだろ?

 軍の斥候がついてんだ。何かありゃ知らせてくるだろ』


「いやな、バックミラー越しだが後ろの車のやつら中で何か揉めてやがったんでな。

 もしかしたら、その先行車との定期連絡が途絶えたんじゃねえかって思ってな」


「だがまあ、考えすぎってこともある。気にするほどの問題じゃねえのかも。

 そういう事態だったらこっちにも連絡よこすだろうしな」


「これで、そこらの茂みから撃ってこられたなら、さすがの俺でもキレるぜ。

 …ん?何だあれ?」


ライドーはこちらに真っすぐ近づいてくる

謎の飛行物体を見つけた。

エンキョウも視認し、首をかしげる。


しばらくして、二人はそれが何かを悟り戦慄。

同時にこう叫んだ。


「R・P・Gッ!!!!!!!!!」


RPG。

携帯対戦車グレネードランチャー。

安価、簡便、強力であるため途上国や武装組織が好んで使用し、

紛争では必ずと言って良いほど目にする貧者の兵器。

だがその威力は折り紙付きであり、ライドーたちの乗る車程度を

一発で粉々にするぐらいはわけがなかった。


それを茂みから車列へと放たれたのだ。

気付いた時には先頭車両は吹き飛んでいた。

後続車は、慌ててブレーキを踏む。


続けて二発目が放たれた。

車外へ逃げようとするライドーたち。

しかし、シートベルトが絡まって逃げ遅れる。


「ちっきしょおおお!!」


死を覚悟するライドー。

その時、後方から鉄の塊が飛んできた。

後ろのシートをその巨体で独占していたダロスが

鋼の巨大なハンマーで突きを放っていたのだ。


ハンマーはフロントガラスを突き破りRPGの弾頭を上へと弾いた。

車両上空で炸裂する弾頭。ダロスのファインプレーで命拾いをした格好である。

ライドーたちは、ダロスに簡素な礼を言うと車から踊り出て構えた。


「おお…マジかよ」


辺りはすでにギー軍の抜刀隊に包囲されていた。

その人数は女皇の近衛隊の数を優に上回る圧倒的な戦力差であった。


危機的な状況に総毛立つライドー。

そしてそのメンバーの中に"あの男"を見つけ絶望する。


ラファエル・ザケル・パオロ。

ロリューの軍人である。

天才的なマーシャルアーツの使い手であり、

地上最強の獣アモンをも打ち負かした最強の男が今、女皇の首を

獲りにやってきたのだ。

これで絶望しないわけがなかった。


だがエンキョウはこの状況で不敵に笑う。


「やっとおもしろくなってきたな」


エンキョウはアモンvsザケル戦のテレビ中継を見ていたのだ。

見ていてなお"俺ならば斬れる"と分析していた。

あの神域の技と称されるザケルの見切り術。

あれにはある決定的な弱点があるのだ。

そこを自分なら確実に突けると看破していた。


そしてその旨をライドーに伝える。

ザケルの強さを知っているがゆえに

唖然とするライドーだったが、敵の待ち伏せに

まんまと引っかかるという最悪の状況に

その言葉を信じるしかなかった。


エンキョウがザケルに対応できるとするなら、いろいろとやりようはある。

ライドーは脇にいたダロスに目配せして指示。

ダロスは目で頷き、自らの懐に手を伸ばす。


ロリューの首都ケイヤを血で染めた

二大軍閥による争乱もついに佳境を迎える。


ここが互いの陣営にとって一世一代の正念場であり

勝ち負けのすべてが、この一戦にかかっているのだ。


女皇近衛隊vsギー軍抜刀隊。

ライドーたち戦士団vsザケル。


最終戦の火蓋は今、切って落とされたのであった。

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