第44話 グール

【概要:呪詛の男ワグ登場】


ロリューの首都ケイヤ。


そこはギー軍、バザム軍入り乱れ

激しい争乱の坩堝と化していた。


数で劣るギー軍の一部は民間人に成りすまし

ゲリラ戦を展開。

すでにいくつかのバザムの主要拠点を強襲し

甚大な被害を与えていた。


バザム軍は街の隅からローラー作戦を実施。

ギー軍のあぶり出しにかかる。


御所がある都市での両軍のこの暴挙。

そこには市民への配慮も天皇への忠義もなかった。


ただ両軍の将の頭にあるのは敵の殲滅。

そして己が野望の成就。


ギー少佐は、ロリューを元の王政に戻し王として君臨するため。

バザムは、天皇を傀儡に自身の権勢を磐石にするため。


なりふり構う余裕のなくなった両者は

己の欲望に忠実に動き続けた。


そしてバザムは最悪の部隊を街に投入する。

元第4特務部隊の暗殺チームである。


かつて巨凶の男ブッチャーも所属していたことのある

曰くつきの精鋭部隊。


市民や味方すらも戯れに標的とする彼らを

人々は畏怖と侮蔑を込めグールと呼んだ。


そしてケイヤ南のコインランドリー内。

浅黒い皮膚の男がいた。


周りをギー少佐配下の男たちに取り囲まれている。

彼らに下された命は、敵戦力をできるだけ削ぐこと。


ゆえにロリューの軍服を着るこの男を標的と

見定めたのだ。


この男の名はワグ。

グールの一人である。


この男に下された命も、彼ら同様

敵勢力の排除。お互いの思惑は一致していた。


しかしギー少佐配下の男たちは攻めあぐねる。

ワグの周囲をガードするように女たちが立ちはだかっていたからだ。


女たちはすでにこの呪詛の男ワグの思惑通りに動くよう

"ある呪い"が込められていたのだ。


ワグの命令で一斉に男たちに掴みかかる女たち。

その際に生じた隙を突き、ワグが動いた。


それは触れるような打拳。

およそ人を殺傷どころか、痛がらせることすら

不可能なほどの弱いタッチ。


しかしそれだけで、男たちは昏倒し絶命した。

すべてはこの男の禍々しい特質によるもの。


直後、女たちは苦しみに悶えワグにすがりつく。

ワグは表情一つ変えずにその女たちを抱いていった。


異常な光景である。

そしてこんな男が幾人も鎖に繋がれず

街に放たれているのだ。


まさに狂気。

そしてこれが戦争。


街はすでに天皇派軍閥軍に包囲され

上級市民以外の出入りは禁じられた。

ギー少佐配下の者が紛れている恐れがあるためだ。

ゆえに中級以下の市民は街の外には出せない。


ギー軍、バザム軍が激しい戦闘を繰り広げる中、

多くの市民が犠牲となり、それは今なお拡大を続け

毒虫の壷と化した街は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。


そこにはもはや正義も大儀もない。

ただあるのは兵の理屈。弱肉強食の冷徹な掟。


南から吹く不吉な風は、人々を怯えさせ

グールどもを活気づかせた。


ケイヤ市民の受難は続く。

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