第45話 ポイズン

【概要:ザケルvs呪詛の男ワグ】


それは異様な光景であった。


人気のなくなったケイヤの繁華街。

そこを男が一人歩いている。


呪詛の男ワグである。


男の周りには複数の女たち。

すべてワグによって体内に

呪いを込められた者たちである。


呪いとは毒であった。

アクアレギアと言われた最凶の劇薬。


アクアレギア。

旧世界の錬金術師たちが用いた

濃塩酸と濃硝酸とを混合して作製される液体。


酸化力が非常に強く、銀以外のいかなる金属も

溶かし込むことから王水(アクアレギア)の名がつけられた。

腐食性も非常に強く、人体にとって極めて有害。


ワグは、己の体内でこの液体を作製し

自身に取り込んだ各種毒物と融合させ

体の外に分泌できる能力を有していた。


その劇薬を女たちの体内深く打ち込んだのだ。

その激痛たるや出産の苦痛の比ではない。


本来ならば歩けぬほどの痛みに襲われながらも

女たちはワグを守護するように歩いていた。

なぜか?


それは生きるためにワグが体内に持つ抗体を

定期的に摂取しなければならないからだ。

そして摂取方法は男女の接合のみ。


それをワグ本人の口から聞きおよんでいた。

ゆえに女たちはワグの命令を聞く以外に術はなく

こうして彼を守るためだけの肉壁と化していたのだ。


効し難い痛みに襲われながらもワグに

付き従う女たち。

その姿はまるでゾンビのようであった。


これがワグが呪詛の男といわれる所以である。

呪いで縛り、呪いで使役する。

まさに呪術師。


ワグはこうして出会う女たちをすべて肉壁に変え

自らの守りとし、出会う男たちはことごとく

その肉壁を利用し殺していく。


それが彼の戦闘スタイルであり、今このケイヤの地でも

実践している戦法である。


彼に攻撃を加えるためには、まず数十人の女たちを

相手にせねばならず、さらにワグ自身が

すぐれた拳法の使い手であるため

女たちに気を取られた瞬間

ワグの毒拳の餌食となってしまうのだ。


大戦中を通しても

彼のこの肉壁戦法を破った者はいない。

ゆえにワグは最凶の男とも言われていた。


だが彼の前に立ちはだかる者がいた。

薄く口元を緩ませていたが目には

あからさまに怒りの色が見て取れた。


ギー少佐の派閥に属する男。

スタジアム王者を一撃で倒した拳勇。

そしてあのアモンに勝った偉大なる戦士。


伝説の男ラファエル・ザケル・パオロである。

ザケルの参戦であった。


ザケルを発見し口元をほころばせるワグ。


今、最強vs最凶の戦いが始まる。

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