第43話 ウォー

【概要:ギー軍vsバザム軍】


ロリュー東の地。

バルクレイ平原にてギー少佐率いる12000名の兵団と

バザム将軍率いる24000名の軍隊がにらみ合う。


一足先に軍を動かしていたバザムをギー少佐が

迎え撃った形である。


大戦以降、ロリューは失脚した王に代わり天皇を据え

治世を行なっていたが、台頭する軍閥に対しては

完全にコントロールを失っていた。


大小様々な軍閥は前王派と天皇派に分かれ

小競り合いを繰り返しており、

天皇派の代表格であるバザムと前王の遺児であるギー少佐

との決戦はもはや必然の事であった。


そして勝敗はすでに決している。

バザムはある法則を頭に描き、ほくそ笑んだ。


ランチェスターの法則。

フレデリック・ランチェスターというエンジニアが

戦闘により戦闘員が損害を受ける割合や対決した個体を調査・研究し、

導き出した法則のことである。


その法則によると双方が同じ武装、同じ射程かつ

集団が相互に見渡せる戦場では、2倍の兵力があるとき、

実際にはその戦力差は4倍にもなるという結果が導き出される。


つまりギー軍12000対バザム軍24000が正面から撃ち合いをすれば

バザム軍は4000程度の被害でギー軍を殲滅できるということである。

これはもう戦いなどではなく一方的な虐殺である。


もっとも刺客として送ったエリシャのギー暗殺が

成功していればしなくても済んだ戦い。

そういう意味では被害が4000でも多いだろう。


だが、経過がどうであれ勝てばいい。

それがバザムの人生哲学であり、性質である。

ゆえに勝利を確信し笑みを浮かべたのだ。


そして両軍はその歩を進めた。

そこでギー少佐はある驚きの戦法を取る。


戦車の有効射程外から次々と砲撃させたのだ。

通常弾ならば相手に何の損害も与えられない無駄な行為。

しかし、その砲弾はすべて煙幕弾であった。


立ち上る煙幕。すぐに戦場の視界は閉ざされた。


来るべきバザムとの決戦に備えてギー少佐が

秘密裏に作らせた持続時間と範囲を強化した

特殊な煙幕弾である。


これで敵、味方双方の視界を塞ぎ

ランチェスター第2法則でいう所の

集中効果の法則を崩したのだ。


すぐさま抜刀隊を主軸として総員で突撃を開始するギー軍。

バザム軍もそれを迎え撃つ。


後は、1人が1人を狙い一騎打ちする戦。

ギー少佐はこの戦を単純な引き算の戦いへと持ち込んだのだ。


この奇策を持ってしてもギー軍がバザム軍に与える

損害は一兵残さず戦ったとして12000。

24000の兵をもつバザムの勝利は揺るがない。


だがそれでいい。

それがいい。

ギー少佐は不敵な笑みを浮かべた。


数刻後、3割の兵を失い

敗走を始めたのは何とバザムの軍であった。


負傷者やその怪我人の収容を考えるなら

3割の兵の損耗は事実上の壊滅状態である。


だがこれより先にギー軍は3割以上の兵を失っていた。

しかし、彼らは戦いをやめようとはしない。


ナノプローブといわれる旧世界の禁忌の薬物。

これにより、兵たちの感情を殺し

死をも厭わぬ殺人機械に変貌させていたのだ。


暗殺に携わる者が自らに使うテクニック死極で

得られる効果を注射一つで簡易的に全兵士に

施していた。


バザムの哲学が"勝てばよかろう"なら

ギー少佐のそれは"死なばもろとも"。


この狂気の軍団に普通の人間が太刀打ちできようはずもなく

かくしてバルクレイ平原での攻防はギー少佐に軍配が上がった。


そしてその勢いのまま首都になだれ込み

ゲリラ戦を展開するギー軍。


ロリューの首都ケイヤでのまさかの攻防戦に

各陣営の軍閥や日和見を決め込んでいた者たちは

大いに恐怖した。


この男、正気ではない、と。


バザムは、非常事態宣言を発布。

陣営内の軍閥に助けを求めるとともに

隣国パレナの戦士団にも救援要請をかけた。


対して、ギー少佐率いる前王派も総力を結集し事に望む。


バザム軍、ギー軍、天皇派軍閥軍、前王派軍閥軍

そしてパレナ戦士団。


群雄割拠する首都ケイヤ。

各陣営の思惑入り乱れ

今、血で血を洗う戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

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