第42話 エリシャ

【概要:ギー少佐vs暗殺者 決着】


ギー少佐vs女暗殺者エリシャ


甲冑での体当たりと空中からの奇襲を

同時に仕掛けてきたエリシャ。


どちらを呼砲で止めても命はない。

だがどちらかに決めねばならない。


ギー少佐は呼砲でエリシャを撃った。

意思ある狂獣と意思なき鉄塊。

考えるまでもないことである。


呼砲をまともに受けたエリシャの体は

肉の潰れる音を響かせ回転した。


そして高速度で迫る総重量150kgの甲冑。

これはかわす余裕などない。

そして受ければ確実なる死。


しかし呼砲のための肺の空気は残っていなかった。

全身を声の共鳴箱として駆動させる仕様上、肺の空気を

2段階に分けて撃つということができないのだ。


変わりにギー少佐は、口元に右の拳を当てていた。

そして迫りくる甲冑を撃つ。

肺に空気はない。吸う時間も無い。

だが、さきほど息を吐きながらとっさに閉じた

口腔内には、まだ少量の空気が残っていた。

その空気を右拳に吹きつけ擬似的な声帯としたのだ。


管楽器奏者の循環呼吸から発想を得た新呼砲とも言うべき技。

それを走馬灯の中で見い出していた。


直後、甲冑と激突するギー少佐。

ギー少佐もエリシャ同様、空を舞った。


通り過ぎた甲冑は屋敷を半壊させてようやく止まる。

後に残されたのは倒れ伏すギー少佐とエリシャ。


しばらくして立ち上がったのはギー少佐だった。

全身ありとあらゆる箇所からの出血が見て取れたが

たしかに立っていた。


あの甲冑の突撃をまともに受けながらである。


不完全な威力ながらも新呼砲で

甲冑の突進力を弱める事に成功していたのだ。

まさに奇跡的な神技。


ギー少佐は、足を引きずりながら

エリシャの絶命を確認する。

そしてその瞳を閉じさせ、そっと頬に手を当てた。


エリシャとは同じ師の元で教えを受けた間柄である。

ギー少佐にとって彼女は、同門の先輩である以上に

良き友であり、家族であり、そして恋人でもあった人だ。

他人にはうかがい知れぬ深い繋がりや想いがあるのだ。


そこへ騒ぎを聞きつけた隣家に住むウォームが

ガスマスクにパジャマといういでたちで現れる。


ひとしきり狼狽した後、ギー少佐を発見し語りかけた。


「ギ…ギー様!ご無事ですか!?」


ギー少佐は答える変わりに手を上げた。

そしてエリシャの遺体を抱いて歩き出す。


「ウォームよ。すぐに準備しろ」


「準備?な、何のですか?」


「もちろん…」


「戦争のだよ」


「…ッ!」


戦争という言葉を聞き、大きく息を飲むウォーム。

ロリューを二分する内乱の幕開けであった。

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