第27話 ザケル

【概要:ザケルvs王者ブルーザー】


パレナの首都パレナ市。


その中央区にあるドーム型スタジアムで

ある戦いが行なわれようとしていた。


金網で囲まれたリングに立っているのは二人の男。


一人は、スタジアムの王者であるブルーザーという大男。

一人は、ロリューの軍人ザケル。


今、試合開始のゴングが鳴る!


時は一ヶ月前にさかのぼる。


ライドーの元にスタジアムへの参戦を希望するとの

趣旨の手紙が信頼できる人づてに届く。どうやら口利きが望みらしい。


たしかにライドーは、パレナ市では顔が利く男ではあった。

だが、スタジアム選手として登録したいのなら、正規の手続きをすれば

済む話であり、ライドーにわざわざ口利きを頼む必要などはない。


しかしその手紙の主がパレナ国への連続テロ行為で要注意人物とされている

ロリューのザケル中佐となれば話は別である。


今だ容疑の段階であり、証拠などが上がっているわけではない。

もっとも、証拠があっても他国の軍人となれば

その扱いには慎重にならざるをえない。そういう相手である。


そんな男がスタジアムバトルに出たいという。

これにはライドーも頭を抱えた。


断るのは簡単ではあるが、テロ行為の容疑者を捕らえられる

千載一遇のチャンスでもあった。それを独断で潰すという判断は

彼の裁量を大きく超えていたのだ。


そこでライドーは魔道士会の長ナザレに相談し、指示を仰ぐことにする。


結果、ザケルの要求はあっさりと通される。


その理由が"挑まれた勝負を避ける理由など無い"という

まったく政治的判断とはかけ離れたものであったため

ライドーはさらに頭を抱えた。


しかし、上の判断が出たのだからライドーは動くだけである。


すぐにスタジアム関係者に面会し、試合の段取りを付けた。


ザケルの条件はない。しかし、試合を許可したナザレは

ライドーにこういう条件を出した。


"最高の男を用意しろ"

これだけである。


ライドーの知る最高の男はアモンと決まっていた。

しかし、彼は強いといわれる相手にしか興味を示さない。

恐らくは依頼を出しても断られるだろう。


そこで、ライドーが選んだのは、

このスタジアム最強の男ブルーザーであった。


タンク・ブルーザー。

元フットボーラーのスタジアム王者である。

頑健な肉体と人間離れしたパワーの持ち主であり

ベンチプレスでは380kgをゆうに上げる。


テクニックよりも力押しの目立つ大男ではあったが、

そのパワーは尋常ではなく、スタジアムに集う数多くの猛者たちを

一撃の下にマットに沈めてきた。


今では、強すぎて試合が成立せず、スーパー王者として

格上げされ、試合のない退屈な日々を送っている。


こういう餓えた男こそザケルという男に

ぶつけるには相応しいであろう。というライドーの判断である。


あわよく負傷でもしてくれれば、入院中に理由を付けて

簡単な尋問なども行なえるかもしれない。そして関係部署に対し

そういう手配もしていた。すべては彼のコネ作りのためである。


ライドーはザケルがどんな男かは書類上でしか知らず

戦力的には未知数であった。


それでも、ブルーザーには勝つことはできないと踏んでいたのだ。


そしてそれは、スタジアムに集ったギャラリーも同じ気持ちであった。


高らかに鳴るゴング。


ブルーザーはザケルに踊りかかっていった。


様子見も何も無い。

いつもどおりの真っ直ぐで愚直な戦法。


近づいて殴り倒す。

ただそれだけ。


そしてただそれだけでスタジアムを制した男である。


ブルーザーの拳がザケルの顔に迫る。


次の瞬間、ザケルは驚きの動きを見せた。

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