第28話 バタフライ

【概要:ザケルvs王者ブルーザー決着】


ラファエル・ザケル・パオロ

身長185cm 体重85kg


恵体ではあるが、格闘技者としてベストかと

問われれば、少し線が細い印象のある、そんな男である。


異例の早さでの出世。不明の所属部隊。

軍歴も謎に包まれていた。


そんな男があの巨漢の男ブルーザーと戦うという。


スタジアムに詰め掛けた

血の気が多いパレナのギャラリーは

ブルーザーの一方的な展開を期待した。


しかし結果はどうだろう。

たしかに一方的にブルーザーが攻めてはいた。


だが一発も当たらない。

ただの一発も。

かすりすらしない。


ザケルがブルーザーの攻撃を

すべてかわしているのだ。


打撃だけではない。

テイクダウン狙いのタックルや掴みも

ことごとく、すり抜けるようにかわしていく。


その動きはまるでダンス。

中空を舞う蝶のごとし。


ザケルのこの魔法のような動きには

現実的な秘密があった。


察気術。

忍びが用いたといわれる空間認識術である。


敵の動きや連係、体のおこり、眼球の揺れなどから

次の行動を予測し、自身周辺空間への理解と対応を

補助する技術である。


ザケルはこの中で眼球の動きに着目し、

独自で研究、分析した結果、察気術の進化版ともいえる予測術。

相手の動きをほぼ100%看破する術を見に付けていた。


意思よりも脳の動きに注視したのである。


人の行動にはまず意思が必要であると思われていた。

しかし旧世界の研究者は、意思の前に脳が反応していることに気付く。


つまりふいにコップを取ろうと手を伸ばす、数秒前に

脳がコップを取るという決定をしているのだ。

人の意思はその後付にすぎないのである。


そして、その脳の動きは必ず目に現れる。


ザケルはこの法則を利用し、眼球の動きでブルーザーの動きを

彼に意思が降りる前に把握し、攻撃をかわしていたのだ。


だが、格闘というスピーディな状況下で膨大な数の眼球の動作パターンから

その動きを完璧に把握し対応するなど、達人でさえ到底不可能な芸当であり、

人間離れした視力、動体視力、反応速度、身体能力を持ったザケル中佐にだけ

許された領域の技であるといえるだろう。


この神技にギャラリーは大いに沸いた。

ロリューとパレナは20年前の大戦で血で血を洗う激戦を繰り広げた

間柄である。はっきりいってその悪感情は酷く、殺意のレベルにまで

達する者もいるだろう。


だが、この時ばかりはザケルのこの神技に皆が酔いしれたのだ。

武勇を尊び、兵を愛すパレナの国民性が、一時彼がロリューの軍人で

あることを忘れさせたのだ。


一方ブルーザーは自分から仕掛けるのをあきらめ

少し様子を見るため、体を引く。


その動作に合わせ、ザケル中佐は前に出た。

動きを完全に読まれていたのだ。


守勢に回るための一瞬の弛緩。

そこを正確に突くザケルの右ストレート。


その高速拳は正確にブルーザーの顎を打ち抜き。

すべてを終わらせた。


歓声と怒号に包まれるスタジアム。


ギャラリーはアモンとは違うタイプの強者である

ザケルの到来に歓喜していた。

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