第11話ツリー

【概要:闇の国ジーコニア】


ジーコニアという国にパンティツリーなる

忌まわしきものがある。


女性の下着でデコレーションされたその木が出来た由来は、

昔に一人のチンピラが娼婦から剥ぎ取った下着を遊びで

投げて引っ掛けたのがその始まりと言われている。


それが現在では非合法組織に入るための通過儀礼となっていた。


剥ぎ取る際の条件は、その者を殺すこと。

つまり人の命を奪うことが組織に入るための条件である。


枝葉を覆うほどにまで下着を掛けられた木の数は、もはや一つや二つではない。

組織に入りたい若者が国境沿いや県境で大挙し、隣国や田舎から出稼ぎに来る女たちを

待ち伏せ、次々とその毒牙にかけているのだ。


女たちもそれがわかっていながら、家族を養うために

その道を通らざるをえない。まさに地獄である。


こんな逸話を数えたら枚挙に暇がないほどに貧困が支配し、

闇の住人が幅をきかせる国。それがジーコニアであった。


だがそんな国の有り様を変えたいと思う女たちがいた。


女たちは、何人かの有志とともに女性団体を結成。


彼女らは友好国であるパレナの人権団体と提携し、

ヤクザ排斥キャンペーンを展開。さらに国政にも意欲的に参加。

ついに一人の女議員を誕生させるに至る。


彼女らの悲願は国の治安維持を友好国であるパレナに一任するという

法案の可決であり、市民からの圧倒的な支持を受け

着々とその準備を進めていた。


しかし、団体事務所が何者かに襲撃、放火されたのを

皮切りに、団体、および支援団体のメンバーが次々と失踪、惨殺。

さらにはその家族の者までに被害が及び始めてしまう。


大人たちの目を盗んで抗議活動をしていた高校生たちが

一クラスまるごと犠牲となる事件もあった。


こういう事態を予測し、パレナの人権団体のつてで

腕利きのボディガードを幾人も配備していたにも関わらずである。

もはや彼女たちに抗う術はなかった。


次々と失踪、惨殺されるメンバー。すでに支援団体、パレナの人権団体は

撤退し、女議員と、数人のメンバーだけが残された。


だが彼女たちは諦めなかった。

国の中枢までヤクザに支配されている状態で

法案可否の国民投票をする段取りまでこぎつけたのだ。


そして事態は急変する。


女議員が、襲撃され負傷してしまったのだ。

通りすがりの黒肌の男にいきなり殴りつけられたのである。


その威力はすさまじく、一撃で腕は折れ、あらぬ方を向いていた。


これは序章にすぎなかった。


翌日、またその男の襲撃を受け、今度は足を折られてしまう。

翌日は、また腕を、そして翌日はまた足を、そして翌日は…。


次々と破壊されていく女議員の肉体。しかしその男の圧倒的暴力を前に

誰にもその凶行を止めることはできなかった。


だが、どんなに体を破壊されても議員は登庁し続けた。


国民投票を前に山積していた仕事を片付けるため、

そして卑劣な暴力に絶対に屈しないためである。


彼女は強い信念で登庁を続ける。


女議員には、夫も、子供もいた。ささやかな夢もあった。

そして、それらはすでに彼らに奪われていたのだ。


もはや、彼女に止まるべき理由などなかった。


両手足は元より、破壊は両の乳房、陰部にまでおよび、

自力での移動はできなくなった彼女は車椅子での

登庁を余儀なくされる。


その後も彼女への加虐は止まらない。


時に、痛みに抗しきれず生娘のような声を張り上げ

皆の前で醜態をさらしたこともあった。


時にただの穴として扱われ悔しさにむせび泣くこともあった。


だがどんな目に合わされても

彼女の澄んだ強い瞳が陰ることはなかったという。

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