第10話シャイニング

【概要:アモンvs怪僧ベイ】


海岸沿いにある防風林。

そこに巨躯の男が二人いた。


一人はアモン。

そしてもう一人はベイ。海神教の僧侶だという。


ベイの脇には、猿轡をかまされ縛られた少女がいた。

ベイは串刺しにした巨大なタコの足をほお張りながら

ゆっくりと口を開く。


「これ、いるかな?アモンさん」


タコ足をアモンに向けてそういった。アモンは無言で拒否する。


「そうか、よかった。これは深海に棲む

 海神様の守護者の足なんだ。食すことは許されていない」


「だが、同じ海神様の守護者たる我々海神教徒なら話は別さ」


「いずれは私もこのタコも海神様の元へと還る運命。

 腹が減れば足を拝借もするし、殺しもするだろう。

 すべては海神様の御心のまま…それ以外はねアモンさん。

 瑣末な事なのだよ」


その言葉を受けながらアモンは無言でパンプアップした。

盛り上がる筋肉。はじけ飛ぶTシャツ。

臨戦態勢は今、整ったのだ。


「キミがここにきた、ということはまだ調教が足りなかったらしいな?」


「まったく、子供一人でえらい騒ぎよう…」


「子供ならたくさん仕込んでやったではないか。ええ?

 キミはみたか?王宮にいる女たちの腹を。壮観だったろう?」


「特に王妃。ふふふっ、排卵を誘発する秘薬を盛ってやったら

 あのデカイ腹!はははっ!あれは相当、苦しむだろうなぁ。はははっ!」


「それでは、始めようか。キミを始末して調教を完成させるとしよう。

 二度と私に逆らわないように、きっちりとなッ!」


怪僧ベイはそう言うや否や片手で脇にいた少女を空高く放り投げた。

放物線を描き、少女は海の中へ。

ほぼ同時にアモンも動き、自らも海の中へとダイブした。


「さあ、ゲーム開始といこうじゃないか?」


そう言ってベイも海へと飛び込む。


海中での攻防は一方的であった。


海中泳法での高速移動。

周回行動での海流操作。

水戦術での強力な打撃。


そのどれもがアモンを苦しめダメージを与えた。

何よりも不味いのが酸素不足による行動力の低下。


反撃するにも、移動するにも著しく制約を受け、

さらに息継ぎのリミットも近づいている。


そして海底に沈んだ少女の元に何とかたどり着いた

アモンを襲ったのは、怪僧ベイの放った恐るべき泡砲であった。


血反吐を吐くアモン。しかし、アモンは、何とか体勢を建て直し

海底を足で捕らえ身構えた。


これで乱された海流に翻弄されることはなくなった上に、

攻撃方向も限定される。しかし、ベイはアモンを観察し、

もうロクに攻撃する余力はないと判断する。


『ふふっ、反撃開始…というわけか?』


『だが、息の詰まったその状態で』


『私を倒せるだけのパンチが打てるかどうか』


『試してみようじゃないか』


アモンの後方から接近するベイ。

さらに、その構えはさきほどアモンに見舞った泡砲である。


アモンにもう力は残されていないと判断しつつも

なお接近戦を避けるという徹底ぶり。

それがベイという男の性質であった。


泡砲の間合いまで後、数秒。

アモンは打拳を下の岩盤へと打ち下ろした。


海岸に近い岩盤層の中には太古の昔、そこがまだ地上であった時の

大気が閉じ込められていることがある。アモンはその可能性に賭けたのだ。


幾千幾万の時を経て、辿りついた古代の大気がアモンの肺腑を満たした。

直後、アモンは、全力の打撃をベイに向けて放つ。


海中は光で満たされた。

キャビテーション発生条件である100Kmをはるかに上回る速度で放たれた

アモンの高速拳により生み出された光が、爆音と衝撃波とともにベイを襲ったのである。


その威力はすさまじく、ベイの体を辺りの海水ごとはるか上空へと打ち上げ

すべてを終わらせた。


数刻後、砂浜には少女に人工呼吸をするアモンの姿があった。


息を吹き返す少女。

彼女が自分に12人もの弟、妹が出来たことを知るのは

もっと後のことになる。

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