発見する姉
こんにちは。あたし、サラ。ぴっちぴちの17歳。そろそろ嫁き遅れな年齢だって言われそうだけど、これには語るも涙、聞くも涙の訳があるのよ。
あたしは幼いころに将来を誓い合ったレアンオン兄さまというひとがいたの。
だからいくら周りから、貰い手がなくなってから嘆いても遅いぞだの、このままだといかず後家になるぞだの言われてもぐっと耐えてたのよ。なぜならあたしには愛しのレアンオン兄さまがいたから。
兄さまは長い間都に行ってたから、帰ってきたら、きっと結婚してくれるんだと、そう、おもって…思っていたのにーっ!
ちゃっかり都で奥さん見つけてくるなんてひどい!
そりゃあ、あたしみたいな田舎くさいイモ娘よりは、都にいる着飾って優雅にしてる宝石のような方のほうが100倍も1000倍も魅力的だなんてことはこのあたしがいっちばんよーくわかってる。
でもでも、レアンオン兄さまなら、そんな外見だけの人にひっかからないと思ってたのに!
…まぁ、レアンオン兄さまは本当に素敵な人だから、ちゃんと中身を見て決めたんだろうなぁ。なおさら太刀打ちできないや。はぁ。
溜息といっしょにぷーっと右手に持ったホコウエイの綿毛を吹き飛ばす。
そんな兄さまと奥さんが帰ってくる村になんていられなくて、「行方不明の弟を探してくる」なんてなんとか理由つけて飛び出してきたはいいけど、これからどーしよーっかなー…。
実はまだ村を出て200歩ぐらい。後ろを振り返れば、たぶんまだみんな手を振っているのが小さく見えると思う。
都の方に向かおうかな。それなら、人も物も情報も集まっている筈だ。弟のノエルの行方を知っている人もいるかもしれない。
強い風がごうと吹き抜けた。決して切らないとジャンと約束したあたしの金の髪が揺れた。
ノエルもあたしと同じ金の髪と青の瞳を持っていた。瞳は大きくぱっちりしていて、髪の毛は女のあたしが歯ぎしりして羨ましがるくらいさらさらつやつや。肌なんて白くてすべすべで、シミ一つなかった。だからかどうか、女の子みたいにおどおどしていて、あの弱肉強食、うるさい大家族の中で珍しいくらい大人しい性格だった。
…たぶん高く売れるんだろうな、ノエルだったら。家出して、もし悪い人につかまってたら…。
ううん、悪い方には考えないようにしよう!ノエルだっていくらなよなよしてても男の子!自分の身ぐらい自分で守れる筈!うん!
「だああああ!?」
なんて考え事をしていたら、盛大になにか柔らかいものに躓いて転んでしまった。
誰よこんなとこにイノシシ放置しといたの!ちゃん仕留めたら持ってきなさいってあれほ、ど…人間!?
咄嗟に過去の弟たちの悪行が頭をよぎったけど、躓いたのは、イノシシでもなく、人間だった。
しかも、大分ぼろぼろ、なんですけど…。
ピクリとも動かない。もしかして、死んで、る?
「あ、あのー…あのー…もしもし?死んでます?」
返事がないので、とりあえず埋めるための穴を掘ろうとあたしは腰の鞘に手をかけた。行きずりの人にも墓をつくってやるぐらいの慈悲はある。
その時だった。いきなり、死体が動いたのである!
「み、ず…」
かすれた声と、持ちあがった頭にあたしは驚いた。二重の意味で、だ。
それが限界だったらしく死体はもとの沈黙に戻ったが、あたしは驚きで声も出せなかった。
まさか。
いや、そんなまさか。
とりあえず死んではいないらしいうつ伏せの死体をひっくり返して仰向けにして、その髪をかきあげた。
金の、髪。さっき見えた青の、瞳。女の子と見間違えるぐらいのかわいらしい顔立ち。
いやいやいやいや、あたしまだ村から200歩よ?そんな奇跡ってある?
でも何らかの事情があって、やっと今日、村に帰ってきたんだったら、説明はつく…。
あたしは彼の全身をさっと確認した。傷はすり傷ぐらいで、その辺に生えている薬草で十分治療できるものだ。
よし。この人がノエルだったと仮定して。
あたしはぐっと拳を握りしめた。
証拠隠滅しよう。
こんなとこに寝かせてられない。ノエルが見つかったとなれば、あたしの旅も即終了!たかだか15分の旅なんて皆のいい笑い物よ!
傷の手当だけして、このまま旅に拉致しよう!だって5年間も帰ってきてなかったんだもの。それがもう一年増えたってたいして変わりはしないわよね!
あたしはとりあえず治療のための薬草を採ってこようとノエル(仮)をそっと地面に置こうとして、聞こえてきた声にぎょっとした。
「―…サラー…」
こ、このっ、この声は…。
「サラー!」
ジャンだ!あ、あ、あの子、あれっほど言ったのに、追いかけてきたんだ!
あたしはノエル(仮)を抱えたまま、わたわたと踏鞴(たたら)を踏むと、超特急で村と逆方向に走り出した。
ノエル(仮)が細身でよかった!
過保護なジャンにこんなとこ見られたら、本当にあたしの旅はおしまいよ!
「サラーおいサラー!どこにいるー?やっぱり俺も…」
姿は見えないけれど、ジャンの声は聞こえる。その声の続きは最後まで聞けなかった。
何度も何度も通ったこの道。
一見草で覆われて見づらいけど、小さな崖がある。下は川。小さい頃は地面がもっとあると思って足を踏みだそうとしては、兄たちに怒られていた。たまに流されて兄にすくいあげられることもあった。
流石に、大きくなってからは勝手知ったりで、そんなバカをやろうとすることもなかったのだけれど、この時、あたしはそのことを完全に失念していた。人間追い詰められると冷静な思考もできなくなるものよね。
「…!」
ジャンにばれないように咄嗟に悲鳴を飲みこむだけの頭があったことは、褒めるべきところかしら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます