ラノベテンプレをぶっ壊す!俺が滅ぼす異世界物語

カリナ

プロローグ

召喚からの敵対

 

 俺はラノベの主人公が嫌いだった。

 理由は簡単。

 行動一つでチヤホヤされて、ハーレムしては謙虚にみせて、努力もしないでチート能力を手に入れる。

 こんなにも不愉快なものがあるだろうか。

 自分が気に入ったサブキャラでさえもヒロインそっちのけで主人公を好きになる。

 俺はそんな主人公が羨ましくて、憎かった。

だが、そんな主人公に憧れてもいた。

 俺が異世界召喚されたら勿論テンプレに沿って行動するだろう。

 チヤホヤされたいから。


俺は友達も少なく、彼女もいなく、学校には行くものの出席しない授業も多いろくでなし。楽しいものはラノベとゲームという、将来引きこもりの道を歩む高校生だ。


 はぁー。と溜まったストレスを腹から逃がす。


「この〇ばも読み終わったし、暇になったな」


 別に誰に話しかけているわけでもないが、何となく独り言を呟いた。


 時刻は0時。


 友達はとっくに寝落ちしたし、テレビは面白と思わない。彼女というものが居れば話し相手にもなってくれたのだろうか。


 そしてこれまた何となく、星を見ようという気分になった。

 普段は星になんて何の興味も無いのに、何故か見たいと思った。


 親に気付かれないようにそっとドアを開ける。

 何かに誘われるようにふらふら歩いた。

 どれくらい歩いたか分からない。

 俺は何を思って歩いているのだろうか。そんな奇妙なことを考え始めていた。

 答えなんて見つからない。歩こうと思って歩いているわけではないのだから。


 何かに引っ張られるように道を進む。


 そんな感覚だった。


 気が付くと、俺はそこにいた。ここでようやく外にいるのだと実感した。

 目が覚めた気分だった。


 星が無数に煌めいて、その下には星を飲み込むかのように口を開ける湖があった。その湖の周りには、木々が湖を汚すものを近寄らすまいと仁王立ちしている。


 神秘的な場所。


 俺はここがどこだか分からなかった。どうしてここを目指していたのか。そもそも何故星を見ようと思ったのか。どうしてここへ来るまでの記憶が曖昧なのか。

 よく分からなかった。

 まるで何かに導かれる様にして歩いて来た。それは知っていた。


 取り敢えず、帰り道を探そう。


 そう思った瞬間、湖から声が聞こえた。



 ーーー助けて



 その掠れた声は確かに耳に届いた。

 いや、耳に届いてしまったと言ってしまった方が良かったのかもしれない。


 声が聞こえたのは湖の中。

 中心部に目を凝らすと虹色の光の直線が月に向かって引かれていた。


 その光景に心が踊った。

 もしかしてという小さな希望を胸に、その光を目掛けて湖に飛び込んだ。

 光の中は冷たさとか息苦しいとかが無く、ただ光っていた。眩しすぎて目を開けていられない。

 今自分がどの辺にいるのかも分からない。


 しばらく、目をつぶっていた。


 次第に光は遠のいて行き、代わりに人々の声が聞こえるようになってきた。

 雄叫びを上げる者、悲鳴を上げる者、響き渡る金属音なんかも聞こえた。


 戦争中


 誰しもがそう考えるはずだ。そしてこれは、


 異世界召喚


 その言葉が頭をよぎる。


 掠れて聞こえていた悲鳴や雄叫びが少しずつ鮮明に聞こえてくる。

 そして、浮いていた足が地についた。


 そっと目を開けると、鎧を着たゴツイおっさんが俺を守るようにして囲んでいた。


「お目覚めになられたぞ!」


 内の一人が言った。

 すると一斉にこちらを振り向き、待ってましたと言わんばかりの顔をした。


 俺はそんなに期待されている存在なのか。


「ちょっと通してくれ!」


 次に聞こえたのは老人の声だった。

 老人はゴツイおっさんを掻き分けて俺の元へと駆けつける。

 老人も期待に満ちた顔をしていた。


「よくおいでになられました。貴方様は7番目の召喚対象に選ばれたのです。」


「7番目?」


 おかしい。

 普通に考えれば1人目、いや1人がラノベの基本。何人も召喚なんて話が違う。


「ええ、他にも6名この戦争に参加しておられます」


「そいつら全員有り得ない能力とか持ってたりするの?」


「ええ、それはそれはみなさん強い力を持っておりますよ」


 どうしてこうも現実というのは甘くないのか。

 ラノベとは全く違う異世界召喚だった。

 そして俺は戦いの道具とされるわけか。


「そして、貴方様に与えられた能力」


 こっちのことなんて気にもせずに、早く戦場へ出ろと言わんばかりの口調で話を続ける。


 だが、これはこの世界で生きるために聞いておきたいことではあった。


「それは、適応の能力」


 適応の能力


 それは一体どういうものなのか。

 ここで俺は何となく、悟ってしまった。


「どんな場面に置いても何かしら適合するという能力です」


「と、いうと?」


「あー、つまりですね…わしもよく分からないのです…」


「ですよね~」


 予想通りの返答だった。

 つまり使えない能力ということだ。

 どうしてこうも上手く行かないものか。


「はぁ。どうせなら魔王側に着いてその勇者をぶっ飛ばしてやりてーよ」


 つい、不満がこぼれてしまった。

 言ってはいけないことを言ってしまった。


 周囲にいた者が一斉に振り向く。

 全員が俺を敵視しただろう。


「貴様…なんてことを…!」


「毎日何もしてなかったお前に未来を与えてやったのはこの世界の人々だぞ!」


「どうせ使えない能力だ。いっそのこと始末してしまった方がよかろう」


 やはり俺の事は道具として見てるのか。


「おい。俺はしっかり学校生活を送ってたぞ?使えない能力って言うけどそれを与えたのはお前らだ。道具として俺を呼びやがって…」


「てめぇこの野郎!」


 まだ若い兵士が剣を振りかざした。

 鋼の刃が日光を反射し、敵を切り刻まんと刃を目立たせる。

 俺は切られると思った。


 しかし、振りかざした剣は下ろされることなく真っ二つに割れていた。それも、兵士の胴体と一緒に。


「こいつか。勇者をぶっ飛ばしてやりたいと言ったのは」


 突如俺の目の前に、黒いドレスを身にまとった女性が現れた。その女性の髪は長く、腰まで届いており、赤い薔薇の付いた簪で右側だけ楕円形になるように留めていた。

 整った顔に付いている唇は、白い肌がより一層紅を際立たせている。

 黒いドレスの胸元はオープンでかなり育ちの良いものが見えている。

 目線を下へ下げると、細く美しい脚が見えた。

 年齢的には俺と同じくらい。15、16といったところだろうか。


 だが、見た目とは裏腹に行動や言動は酷いものだった。


「貴様らがこいつを捨てると言うならば、私はこいつを貰って行くぞ。いや、もう決めたのだ。こいつを力ずくで貰って行く」


 そう言い放つと、取り囲む兵士を魔法一つで一掃した。腹を切り裂かれ、血やら汁やらが溢れ出ている。

 目は開きっぱなしで殺されたことに気が付いていない様だった。


「この魔法は誰にも見えない魔法。驚いたか?さて、あとはそこの老人1人だな。勇者を召喚する儀式をした割にはかなり守りが手薄だったんじゃないか?」


 ま、こんな使えない能力の上、ここまでの強敵が一人で乗り込んでくるなんて思うわけがないんだけどな。


「周りに気を取られすぎたな。ここで戦っている私の手下は全てダミーだ。私の魔法で作った人形。」


「き、貴様…眠りについていたのではないのか…!」


「とっくの昔に目覚めていたさ。勇者を召喚するこの日まで、じっと待っていたんだ。」


「そうか…ここ最近頻繁に魔物が侵入してくると思ったら…」


「そう。これ以上魔物が侵入しないようにと守りを固める。となると、もしもに備えて勇者を呼び出す。ま、5回目の召喚の時にさらっても良かったが能力も能力だしな。」


 俺を置いて勝手に話を進めないでもらいたい。


「私は思ったんだ。さらに追い込まないと強い勇者が生まれないんじゃないかと。だから今日、戦争を仕掛けたのさ」


「まんまと踊らされていたわけか…」


 でも、生まれたのは凄く使えない能力の持ち主だったわけだが?


「俺は、使えない能力と言われたぞ」


「そう思っているのはこの老人含めた人間だけだ」


「…」


「分からないなら私が教えてやろう。この能力の使い方と、この世界での生き方を」


「お前…魔王側につくってことか…」


「話が早くてなによりだ」


「……いいぜ、俺はこの世界でチート使ってハーレムウハウハしている奴らをぶっ飛ばしてやりてぇからな…!」


「いい返事だ」


 そう言うと魔王は俺の手を握り、瞬間移動の魔法を使って城へと戻った。


 瞬間移動の寸前、老人がなにやら言っていたが内容は何も聞こえなかった。


 こうして俺、キリザキ・レントの異世界物語が始まったのだ。









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