2 黒い手
語り終えて満足したのか、菊一は真澄にそろそろ帰ろうぜ、と言い椅子から離れた。
真澄も同時に椅子から立ち上がり、リュックに手をかけた。
「俺、本屋寄りたいんだけど」
「今日は栄子さんにおつかい頼まれてるから」
「じゃあ逆方向か」
菊一がよく寄っている本屋は裏門から、真澄の向かう場所は正門からの方が近い。
2人はたわいのない話をしながら階段を降り、そのまま靴箱で別れた。
真澄は重厚な正門を出ると、頼まれた物を頭の中で確認する。
洗剤、牛乳、ヨーグルト・・・・・・。
栄子さんは自分で買いに行くからと言っていたが、普段お世話になっているため自分に出来ることは直ぐに申し出るようにしていた。
5年前、12歳の頃、真澄は孤児院から今の
なので栄子さん、そして関川家の大黒柱である明夫さんには感謝してもしきれないほどなのだ。
ゆるりとした坂を下り、右に曲がれば
この辺の奥様たち御用達の“スーパー
葱山、という名に恥じぬ緑と白のコントラストが美しいカゴの中に頼まれた物を入れた。
最短ルートで移動すれば、10分ほどで買い物は終わった。
ちなみにスーパーの袋も綺麗な緑色である。
スーパーを出る頃には空は暗くなっていた。
静かな住宅街、淡い電灯、暗闇の怖さよりも早く家に帰って栄子さんを心配させたくない気持ちで足を急かす。
ーーガリ、ガリ、ガリ
ふと、奇妙な音が聞こえる。
何かを貪るような、削るような音。
そんな音を無視し、早く帰ろう、と思っていたのに足が自然に音の方向へと向いた。
真澄自身も驚くほど、足が勝手に道を進んだ。
(もしかして、俺、今、ヤバイことに遭遇してる?)
自分の意思とは関係なく動く足に、真澄は菊一によって聞かされてきたホラーストーリー集を脳内で再生していた。
たどり着いたそこは、公園だった。
菊一に連れられて2回ほど来たことがある名前も知らない寂れた公園だ。
「嘘だろ・・・・・・」
てっきり白い着物を着た長い黒髪の女性がいると思っていた。
幽霊ではないと、はっきりと分かる人間の女性が倒れていた。
それだけではない、女性の周りに黒い何かが纏わり付いているのだ。
その黒い何かには口がついており、人間のような手が生えている。
その手には色とりどりの小さな石が沢山握られている。
手はゆらゆらと動き、そのまま、小さな石をザラザラと口の中に流した。
ーーガリ、ガリ、ガリ
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