第145話 ラジオタイム・ゴーゴー #180


「ラジオタイム」


「ゴーゴー!」


「こんばんは。ラジオパーソナリティの鮎川レレナです」


「こんばんは! ピン芸人のうろん大作たいさくです!」


「今夜も始まりました、ラジオタイム・ゴーゴー。これから三十分間、よろしくお願いします」


「よろなっす!」


「約三年前に始まったこのラジオも、早いもので今回で一八〇回目を迎えました」


「早いですねー。この三年半で、色んな事が起きましたから」


「で、そんな長いことやっていますと、こんな質問が来ています」


「何ですか?」


「東京都、ラジオネーム、トモダチ1.5さんから」


「バージョンアップ?」


「レレナさん、大作さん、こんばんは」


「こんばんは!」


「私は、最近ラジオを聴く習慣が出来て、一か月前にこのラジオも偶然聞き始めました」


「おっ、ありがとうございます。新規の方、嬉しいですね」


「しかし、あまり芸能人に詳しくないので、お二人の関係がよく分かりません。元々はどういう繋がりでしょうか? ……とのことです」


「ああー。知らない人からしたら、結構変わった組み合わせかもねー」


「年齢も芸歴も結構離れていますからね。事務所も違うし」


「じゃあ、レレナが昔芸人だったってことも知らないだろうね」


「そうそう。私は物まね芸人やってて、大作さんはよく劇場で一緒になる先輩で」


「レレナの物まねすごいんだよね。若い女の子の物まねって、女優さんとか歌手とかでしょ? でも、レレナはアニメキャラ、しかも少し昔の男性キャラをやっていてね。すごい似ているんだよね」


「いやー、そうでもないですよ。お出かけですか? レレレのレ~」


「似てるよ似てる! さすが十八番のレレレのおじさん」


「最初、レレレのおばさんって芸名にしようとしたから。でも、先輩方に止められちゃって」


「当然でしょ。当時二十代前半だったし、その名前だとレパートリーが限られそうだしで、色々不利だから」


「まあ、今はそれでよかったって思うんだけどね。えーと、そんな風に皆さんから可愛がられながら、芸を磨いていた、んだけど、」


「だけど、ね?」


「いや、そう言っちゃったら、すごい問題起こしたみたいに聞こえるでしょ。えーと、そんな大したことなくて、私が事務所辞めちゃって」


「大したことでしょー。説明端折りすぎだし。えっとね、レレナがマネージャーと大喧嘩したのがきっかけだったよね?」


「大作さん、それでも説明不足ですよ。私、当時すごくストイックで、物まね一本で売れてやる! って頑張っていたんです。でも、マネージャーが勝手に体張る系の大きな仕事を持って来て、それで怒ったんですよね」


「レレナのストイックさはすごかったからね。喉潰れるくらいに練習していて。それなのに、やりたくない仕事持ってくるなんて、酷いよ」


「まあ、今だと、そのマネージャーの考えも分かるんですけどね? 最初に名前を売って、それから芸を見てもらおうって。実際、その番組、ゴールデンでしたし」


「うんうん。僕もその話聞いて、その仕事蹴ったの⁉ って、びっくりしたよ。こっちは喉から手が出るほど欲しい仕事だったからさ」


「大作さんの言う通りですよ。私も、若かったんですからね。だから、勝手にヒートアップして、もう事務所なんていらない、一人で売れてやる! って、飛び出したんです」


「今でこそ、フリーの芸人さんで有名な人も多いけれど、あの頃はまだまだ逆風で。僕は心配で、その後もちょくちょく連絡を取っていたんだよ」


「有難かったですよ。ここ数か月、バイトしかしていないな、って思った時に、大作さんから連絡来て、物まねの練習に付き合ってもらって。大作さんがいたから、自分は芸人だって意識してたくらいで」


「そんなそんな。ただ、レレナの才能が埋もれるのが勿体なかっただけだよ」


「いえいえ。それだけじゃなくて、私に、一人喋りの才能があるって言って、ラジオ局に売り込んでくれたのも、大作さんだったんですよ」


「うんうん。今思うと、僕の一番のファインプレーだね」


「一番のファインプレーは、自分自身に関することじゃないんですか? 大作さんらしいですけど……。自分の得意な事って、意外と分からないもので、ピンチヒッターのパーソナリティーアシスタントから、すごく評判が良くて、とんとん拍子にラジオの仕事が増えていって、メインパーソナリティーの週一番組をしよう、ってなったのが、三年前のこと」


「一方僕は、どん底で。一度R-1の決勝に行けたんだけど、最下位で、橋にも棒にも引っかからず、その後から一度も準決勝にも勧めず、まあ、売れていないのは変わらないけれど、一回チャンスを逃したからね、その分反動も大きくて、心の中は参っていたね」


「私の最初のラジオの仕事の年と、大作さんのR-1決勝は同じ年だったんで、ここから二人で上を目指そう! とか、勝手に盛り上がっていたんですけどね。誠に残念です」


「面目ない」


「それから三年前、パーソナリティ、もう一人ほしいよね、って話になって、私が大作さんを推薦したんです。恩返しのつもりで」


「あれは本当に助かった。鶴の恩返しみたいだったよ。いや、僕はどん底にいたから、蜘蛛の糸?」


「ちょっと、勝手に蜘蛛にしないでください。鶴も嫌ですけど」


「鶴は千年生きるから、良いでしょ。……まあ、僕らの関係はそんな感じ、ですね。他に新規リスナーが気になる子ってあるかな?」


「大作さんの挨拶、『よろなっす』の由来とかじゃないですか? あれでウケているの、見たことないですし」


「ウケのためにやってるんじゃないよ。それは単純に、『よろしくお願いします』を変な形で噛んだだけ」


「改めて聞くと、しょうもないですねー。えー、では、ここで一曲。エル・ドルフィンで、『心の温度』」


 ~♪


「……はい、聴いていただいたのは、エル・ドルフィンで、『心の温度』でした」


「何か、こうやってレレナとの馴れ初めを振り返ると、色々思い出すねぇ」


「馴れ初めって、カップルじゃないんだから」


「ああ、僕らよくカップルにも間違えられるんだったっけ」


「そういうの、嫌われるからやめた方がいいですよー。後輩の千春ちゃんだって怒っていたし」


「ああ、男女コンビ、あずきじまの。この前ゲスト出来てもらったね」


「また呼びたいですねー。と言っている間に、お別れのお時間です。ラジオタイム・ゴーゴー、今夜も鮎川レレナと、」


「うろん大作でお送りしました。また来週!」


「じゃーねー」






















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