第112話 水平線へ


 どこまででも歩いていけそう



 彼女は、そう断言した。

 その目を眺める先は、どこまでも青色が広がる海だ。



 どこまでも?



 間が抜けた声で僕がそう言うと、彼女はこちらを振り返らずに真っ直ぐ指差した。

 指の先は、水平線だ。



 あそこまで



 水平線を目指しても、また新しい水平線が現れるだけだ。

 僕は、彼女の発言によって、不安が炎のように体を包むのを感じた。



 やめてよ



 とは言えなかった。

 熱い砂浜の、波打ち際にあった彼女の足は、すでに海面で直立していた。



 ちょっと行ってくる



 彼女はそんな気軽さで、歩き出した。

 一歩一歩、纏わりつく小さな波も気にせずに、彼女は無心で進む。


 僕は、そんな彼女に何か言わなくてはと思った。

 このまま、彼女とは、この地球を一周するまで会えない、そんな風に思ったからだった。


 そうこうしている間に、彼女の背中はどんどん遠ざかる。

 言いたいことはたった一つなので、僕は両手をメガホンのようにして、力の限り叫んだ。



「大好きだよー」



 彼女が、一度だけ振り返る。

 白い歯で爽やかに笑い、僕に手を振ってくれた。


 そしてすぐに、再び歩き出す。

 世界の果てのその先、あの水平線へ。













































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